新年展望で経済再生へ「新しい成長モデルの確立」の視点説いた産経
◆民意にそぐわぬ東京
今回は、各紙が今年経済の課題なりポイントを何に置いて、どう捉えているのかをウオッチしたい。関連社説の見出しを並べると次の通り(いずれも5日付)。朝日「暮らしを守る脱デフレに」、読売「アベノミクスの真価問われる」、産経「日本型成長の再確立急げ」、本紙「経済再生へ『加速』できるか」――。
東京は、直接的な見出しのものはなかったが、年頭からの連載社説「年のはじめに考える」の4日付「真の強者は弱者に優しい」が、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を扱っていたので、これを取り上げたい。
まず、その東京。同紙は「アベノミクスに最も欠けている視座は、弱者への配慮であり、再分配政策など格差を縮める努力」と指摘し、アベノミクスを「根底から軌道修正すべき」と強調する。
確かに、格差是正の努力などは一理あるが、根底からの軌道修正となると、先の衆院選の結果――安倍政権やアベノミクスの継続などを支持する形となった――を無視し、「民意」を裏切ることになるが、どうなのか。
見出しの「真の強者は…」は理想であり、まだ途上のアベノミクスも、最終的には「経済再生」「強い日本経済」を目指しており、その理想に矛盾しているわけではない。強い経済でなければ、十分な「弱者への配慮」も叶(かな)わないからである。東京の社説は、昨年末のアベノミクス評と同様、衆院選で自公を大勝させた国民にくどくど説教している感じで、後ろ向きな未練がましい印象が拭えない。
◆好循環を求める読売
その「強い日本経済」を目指し、前述の通り、「アベノミクスの真価問われる」としたのが読売である。
アベノミクスはいわゆる3本の矢政策により円安・株高や企業業績の回復などで「一定の成果を上げた」が、昨年4月の消費税増税以降、景気が減速。春闘での賃上げは昨年2%台に乗せたが、増税分を含めた物価上昇に追い付かず、円安による原材料高で苦境の中小企業も多い。
同紙は「企業の利益拡大を支援し、恩恵を非正規労働者や地方にも浸透させる。民間の頑張りを活性化のエンジンと位置付けるアベノミクスの基本戦略は妥当」とするものの、「問題なのは、好業績の企業が利益を賃上げや設備投資に回し、さらなる成長へつなげる『好循環経済』への流れが、目詰まりを起こしている」として、その「目詰まり解消を急げ」と強調する。
企業には「攻めの経営に転換」を促し、政府にはそうした新規事業に前向きな企業を後押しするため、法人税実効税率の引き下げや規制緩和など、成長戦略の着実な実行を求めている。特に目新しい提案はなかったが、経済再生には奇をてらわず地道な政策を推し進めるほかはないということか。
経済再生へ新しい視点を提示したのが、産経である。同紙は足元の経済低迷に萎縮せず、長きにわたるデフレで染みついた縮み思考から完全に抜け出すことが肝要だとして、「日本型の新たな成長モデルを確立すべき時である」と強調し、官民でその決意を新たにしたいと促した。
経済再生、デフレ脱却へただ漫然と努力するより、それが「新しい成長モデル」を確立することになると思えば、意識の持ちようもより強固になる。同紙が指摘するように、日本の課題の多くは欧米にも共通する。長びくデフレに苦しみ、少子高齢化に伴う人口減少問題に直面する日本は「課題先進国」であり、「その日本が新たな成長モデルを構築できるかどうかは、台頭が著しい中国経済に対し、先進国の成熟経済がどう対抗できるかを考える上でも重要な示唆を与えよう」との指摘は、その通りである。
◆民間に期待した日経
朝日の「暮らしを守る…」は、政府・日銀は物価上昇にこだわりすぎるな、とやや抽象的ななか、特に中小企業で賃上げが進むことが大切として、新しいアイデアを持ったベンチャーの支援といった具体論もあった。
日経(4日付)は日本経済全般ではなく、「イノベーション加速が成長のカギだ」とする社説を掲げ、「一国の成長をけん引する主役は政府ではない。民間企業や個人の創意工夫や進取の気性こそがカギを握る」と民間の積極性を促したのが印象的。欲を言えば、消費税再増税までの緊張感が感じられなかった。
(床井明男)