衆院選焦点「アベノミクス」で改めて増税の影響と成長重視説く読売
◆解散後に各紙が社説
衆院選が2日公示され、選挙戦がスタートした。安倍晋三首相が「アベノミクス解散」と銘打った今回の衆院選は「経済」が大きな争点。公示後、街頭などで第一声を上げた各党党首は、与党側が「アベノミクス」の継続を訴えれば、野党側は「経済失政」と断じ、政策の転換を迫った。
安定多数を維持し2年の任期を残しながらも、あえて衆院解散を決断した安倍首相にとり、今回の衆院選は、政治的な思惑は別として、経済面では国民の「アベノミクス」への中間評価の意味を持とう。
「アベノミクス」の柱はデフレからの脱却を目指した、いわゆる「三本の矢」、すなわち大胆な金融緩和と機動的な財政政策、民間活動を刺激する成長戦略の三つである。今年4月からは、自公民の3党合意による消費税増税が加わり、さらに今回の解散決断の契機となった消費再増税延期(決断)である。
今回は改めて、解散後に各紙が「アベノミクス」について、どう論評したかを見たい。
以下が、各紙社説の見出しである。朝日(先月24日付)「抱えたリスクこそ課題」、読売(28日付)「持続的成長の処方箋を競え」、毎日(22日付)「期待頼みでは続かない」、産経(同)「再生進める構想を競え」、日経(23日付)「経済再生へ『アメ』より改革案を競え」、東京(24日付)「この道を続けるのか」――。
列挙した通り、前向きに評価しているのは読売、産経、日経の3紙。朝日、毎日、東京の3紙は予想通り、ネガティブである。
◆朝日のリスクに矛盾
朝日が指摘する「リスク」とは、専ら金融の「異次元緩和がはらむリスク」のこと。日銀が緩和の結果、大量の国債を購入し、事実上、国の借金を肩代わりしているに等しいため、国の財政に対する信認が失われかねないというもの。そして、それはさらに、政策の転換を困難にし、「出口」を探る時期を遠くするということである。
確かに、朝日の指摘はもっともそうだが、同紙が「日銀が買い入れる国債の量は、政府が新たに発行する国債の9割相当に増え」ることになった先の追加緩和は、同紙などが支持した4月の消費増税が大きな要因である。
消費増税による内需の落ち込みが長引き、このままでは消費再増税が実施できなくなるとみた日銀が追加緩和という「景気てこ入れで再増税の決断を後押しするため、との見方があった」と同紙が指摘した通りである。
要するに、朝日が指摘した「リスク」は、自らが主張し支持した政策が招いたリスクとも言えるのである。
同紙は「デフレ脱却を優先すれば財政再建の比重は下がるだろうし、リスクを気にすれば財政再建も急がざるをえない」と指摘したが、そうではなく、デフレ脱却を最優先に取り組み、景気拡大により税収が自然に増えていく構造に持って行くことである。
米財務省の為替報告が警告したように、財政再建を急いで増税に走れば、経済を悪くし、結果的に税収減、増税の悪循環に陥るだけである。
その意味で、首相が来秋の消費税率10%への引き上げを延期したのは当然であり、「妥当な判断」(読売)である。
◆増税こそ信認を失う
この点、日経がお題目のように唱える「増税の先送りによって財政への信認が失われないように…」との指摘は必ずしも妥当ではない。今回のように2期連続のマイナス成長という経済状況にあっては、増税はさらに経済に追い打ちをかけ財政状況を悪化させかねない。増税こそがむしろ信認を失うことになる恐れがあることを自覚すべきであろう。
財政健全化計画の策定は、日経の指摘を待つまでもなく重要である。ただ、その実現には経済再生、社会保障制度の改革を第一義に取り組むべきである。
また、毎日の見出しのように、「期待頼みでは続かない」のは確かだが、期待を小さくした大きな要因も、毎日の支持した消費増税であることを忘れてはなるまい。
話を戻す。消費再増税を延期した1年半までは、経済再生すなわち経済の持続的成長を実現する期間である。その意味で、これからの12日間の選挙期間は、読売などが示すように、「成長の処方箋」(読売)や「再生の構想」(産経)を競い合う期間である。
(床井明男)