「アベノミクス解散」の選挙争点に憲法改正を浮上させる「サンモニ」
◆経済だけでない争点
衆議院が21日に解散し、23日、日曜朝の報道番組も選挙モードに入った。安倍晋三首相が自らの経済政策を問う「アベノミクス解散」だが、消費税再増税先送りの「GDPショック」は不利なタイミングだ。
案の定、フジテレビ「新報道2001」やNHK「日曜討論」で行われた各党の討論では、野党側からアベノミクスに批判が集中した。首相自身が当初記者会見で勝敗ラインを「過半数」とハードルをぎりぎりまで下げるなど、穏当ではない。
しかし、安倍政権に批判的な番組作りをしてきたTBS「サンデーモーニング」の出演者は、むしろ首相の「自信」をにおわせるコメントを発した。寺島実郎氏は「任期2年残して前倒しして解散するということは、やはり腹の中に相当の勝算があっての解散だろう」と述べ、その上で30議席でも減れば「政局は流動化する」という見解を語った。
自民・公明の与党326議席が30減っても290議席であり、当初の首相の勝敗ライン「過半数」を優に上まわる。にもかかわらず、これで「政局」と見るのは反安倍首相のスタンスもあるが、選挙争点をアベノミクスともう一つ、憲法改正とみるからだろう。改憲発議には3分の2の議席が要る。
寺島氏は、「日本を取り戻すと言って安倍政権はスタートしたが、……憲法を改正して日本を変えようという思いが安倍さんをはじめとする自民党にはある」と指摘し、自民党憲法改正案と「戦後日本が積み上げた民主国家日本」と比較するように視聴者に勧めた。批判的意味合いの発言だったが、むしろ選挙争点を経済問題に矮小(わいしょう)化するより、安倍・自民党が民主党政権末期に掲げた「日本を取り戻す」の原点に立ち、改憲を含め論戦を高めるなら有意義だ。
◆安保も論戦のテーマ
写真家の浅井慎平氏は「先にやりたいことのベースをつくりたい選挙だ。安倍さんのナショナリズムみたいなものがかなり自信が満ちてきた。それを国民が許してくれるだろうという計算があっての解散だと思う」と述べ、寺島氏に相鎚(あいづち)を打った。
同番組はアベノミクスよりも、集団的自衛権、特定秘密保護法、原発など批判的に取り上げてきた問題を焦点化し、国民に「カツを入れ」(浅井氏)批判票を増やそうと手ぐすねをひく。が、日頃批判的な論客が、一部野党の「安倍首相が追い込まれた」との主張とは裏腹に、首相は解散に自信ありという見立てでは、ある意味で安倍首相を評価したことになる。
無論、しっぺ返しを期待するわけだが、岸井成格氏は「巨大与党に対し野党が弱い上にバラバラでは勝負にならない」と嘆き、安倍政権の集団的自衛権など安保政策を争点にすべきだと野党をたきつけた。
ただ、「野党からその声が出ない。やたらアベノミクスに行く」と司会の関口宏氏が苛立つところ、これらの問題には野党の方がまとまらず空回りするかもしれない。与党側も避けずに国民に説明し、理解を求めるべきである。
◆討論に選挙前の弊害
アベノミクスをめぐり各党の政治家を出演させて討論を行ったのはフジテレビ「新報道2001」とNHK「日曜討論」。各党から1人ずつの出演となると、与党は自民、公明の2人、対する野党側はその2~3倍になる。国会で「多弱」と言われている野党側の発言回数は多くなり、政権批判の舌鋒(ぜっぽう)が鋭い。
「新報道」は自民党総裁特別補佐・萩生田光一氏、公明党幹事長代行・斉藤鉄夫氏、民主党元幹事長・細野豪志氏、維新の党共同代表・江田憲司氏、次世代の党国対委員長・中田宏氏、共産党政策副委員長・笠井亮氏、みんなの党(28日解党)代表・浅尾慶一郎氏が出演。
「日曜討論」は、自民党政調会長・稲田朋美氏、公明党政調会長・石井啓一氏、民主党政調会長・福山哲郎氏、維新の党政調会長・柿沢未途氏、次世代の党政調会長・桜内文城氏、共産党政策委員長・小池晃氏、生活の党・政審会長代理・松崎哲久氏、社民党副党首・福島瑞穂氏らが出演。与党側と野党側とで対座し、国会と違い数の逆転は一目瞭然だ。
テレビは事実上、電波を借りた選挙の戦場だ。言い負かしや声の大きさで勝敗を印象づけるなど、政治家が恣意的な心理状態になる選挙前の弊害を感じる。政党が多く、議論も言いっ放しになりがちになる。両番組とも経済指標となる数字を示し討論を進めるが、各党は自ら有利な数値を挙げ、また相手の落ち度を非難するので気色ばむ場面もあり、冷静とはいかない。
(窪田伸雄)





