消費再増税延期を決定づけた「GDPショック」に楽観的な日経社説
◆理解示す読売と産経
「GDPショック」「予想外のマイナス成長」――。
安倍晋三首相が来年10月に消費税率を10%に引き上げるかどうかの大きな判断材料として注目された7~9月期の国内総生産(GDP)は実質年率1・6%減と、冒頭の言葉が各紙の紙面に載るほど、大方の予想を大きく裏切る極めて悪い数字だった。
各紙の予想通り、安倍首相は翌18日の会見で消費再増税の延期と衆院の解散を表明。現に衆院は21日に解散した。
この7~9月期GDPと再増税判断との絡みを各紙はどうみたか。
各紙18日付社説の見出しは、次の通り。朝日「『誤算』と向き合え」、読売「消費増税延期は避けられまい」、毎日「景気とアベノミクス/首相戦略の誤算と限界」、産経「不安解消へ脱デフレ急げ」、日経「増税後の消費回復が遅れる日本経済」、東京「アベノミクスの失敗だ」。本紙(19日付)は「消費再増税延期は当然だが」である。
見出しの通り「避けられまい」とした読売は、「厳しい経済情勢が確認された以上、消費増税よりも、それが可能な経済体力の回復を先行させるのは、合理的な判断と言える」とその理由を説明する。
産経も同様、「脱デフレの歩みに懸念がある以上その判断はやむを得まい」である。
◆東京は批判的「当然」
一方、「アベノミクス」に批判的な立場から「先送りは当然」としたのは東京。同紙は、「この経済状況を招いたのは、十七年ぶりの消費税率引き上げの影響を過小評価した判断ミス」と批判。さらに、「異次元緩和で物価を上昇させ、さらに消費税増税が家計に追い打ちをかける政策には無理があった」などと続ける。
ただ、同紙は「当初こそ経済再生、デフレ脱却を最優先課題に掲げたが、在任二年の多くは特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認など『安倍色』の強い政策に傾注した」と「安倍色」の強い政策の方が気に入らないようである。
だが、同紙のように「アベノミクス」を「失敗」と断ずるには早計過ぎるであろう。確かに、消費税増税の影響の過小評価は同紙の通りだが、現段階で確実に言えるのは、デフレ脱却途上の「早過ぎた」(本紙)4月の消費増税が経済の現況を招いたということ。それに、朝日や毎日が「誤算」と称した点――①円安が進んでも、製造業の海外生産の進展で輸出の伸びが思わしくない②所得が増えても円安と消費増税による物価上昇に追いつかず消費が振るわない③企業は収益が好調にもかかわらず、消費不振もあり設備投資に積極的になれない――などが加わったということである。
仮に4月の消費増税が、首相の政策ブレーンの忠告通り実施されなかったなら、現状とはかなり違った状況になっていたであろう。「誤算」も少なくて済んだはずである。
朝日は特に判断は示さず、「社会保障を支えるのに不可欠な消費増税を先送りするなら、増税できる環境を整えねばならない」と指摘するのみ。毎日は「ただ、将来世代へのツケ回しをやめ、持続的な社会保障制度を構築するには、増税が避けて通れない道であることに変わりはない」とお決まりの文言である。
もっとも、朝日、毎日が指摘した「誤算」は、先の①を除き消費増税によって少なからずもたらされたものである。その消費増税を朝日、毎日は支持していたから、「誤算」の多くは自らにも向けられたものと自覚すべきであろう。
◆実質所得触れぬ日経
それにしても、日経の楽観さはどうであろう。2期連続のマイナス成長で、「振るわなかったのは、個人消費だ」と指摘しながら、「景気の先行きを過度に悲観する必要はないだろう」と言う。
「マイナス成長の最大の要因は、在庫投資の大幅な減少」であり、「在庫調整の進展により先行きの生産は持ち直す兆しがある」「名目雇用者報酬の伸び率はほぼ17年ぶりの高さ」「高水準の企業収益を背景に、企業が雇用・賃金を増やす好循環の動きは続いている」(同紙)からだが、GDPの6割弱を占める個人消費に大きな影響を与える実質所得の減少が続いている現状には触れない。
日米の金融政策スタンスの違いから円安が進みやすい環境にあり、円安に伴う輸入原材料価格の上昇から生活必需品の値上げが相次いでいるにもかかわらず、である。
(床井明男)