中国経済の成長鈍化でリスクに警告を発した「東洋」「エコノミスト」
◆撤退も困難な投資先
一時の中国への熱い視線は消え失せ、今や疑心暗鬼となってしまった感のある中国への経済投資。2010年9月に起こった尖閣諸島海域での「中国漁船衝突事件」、12年の日本政府による「尖閣諸島国有化」に中国が反発を強めるなかで、中国は執拗(しつよう)に歴史問題を取り上げ、日中両国は戦後最悪の関係に陥ることになる。
それに並行して中国国内の杜撰(ずさん)な食品管理の実態やPM2・5に代表される大気汚染など「負の現象」が相次いで報道される。リーマン・ショック以後、世界経済を牽引(けんいん)した中国経済は今やバブル崩壊が始まり、日本企業の関心は中国から東南アジア、インドに向かっているとの指摘もある。
そうした中で、経済2誌が中国の特集を組んだ。一つは週刊東洋経済(11・15号)。もう一つが週刊エコノミスト(11・4号)である。東洋経済の見出しは「中国暗転~高成長の終わりと日本企業の商機」。同誌は次のように記す。「環境汚染から労務対策まで中国のリスクは数え切れない。それで多くの企業が中国を目指したのは、リスクを上回るだけのリターンが期待できたからだ。成長鈍化でリターンが縮小していくとすれば、あらためてリスクを吟味しなければ中国での事業は続けられない」と指摘する。
中国でのリスクといえば、今年7月に中国・上海の中国法人の「上海福喜食品」が期限切れの肉や床に落ちた肉を製造ラインに入れて製造し、製品を出荷していた事件が明るみになり、その結果、同社は操業停止。もちろん日本のマクドナルドなども莫大な損害を受けたのは記憶に新しいところ。
また、中国に進出したものの、いざ撤退するとなると従業員への経済補償金(退職金)や行政との面倒な交渉など膨大な費用と時間を強いられる。最悪の場合、労使間で対立が激しくなり、暴力や日本人駐在員を監禁するケースもあるという。問題はこうした中国経済がマクロ、ミクロ両面にわたって改善するかということである。
◆バブル崩壊の予測も
GDP(国内総生産)で日本を抜き世界第2の経済大国に躍り出た中国。遠くない将来には米国を抜いて世界一になるとさえ見られていた中国だが、ここにきてその足元が揺らいでいるのは事実。そんな中国の現状について、東洋経済は有識者を登場させて分析させているが、その中の一人である津上工作室代表の津上俊哉氏は「7%成長の経済を続けようと無理をすれば、中国のバランスシートは早晩破たんする。…。習主席が就任したころにあった高揚感は今や去った。『中国夢(チャイナ・ドリームズ)』を唱える習主席だが、その胸中は『ノーアウト満塁』を背負ったリリーフエースに近いかもしれない」と述べる。
一方、週刊エコノミストは「中国大減速」と題し、今後の中国経済や習主席の狙いを分析。10月20~23日に開かれた中国共産党の重要会議、第18期中央委員会第4回全体会議(4中全会)で報告された論文を読み解き、さらに早稲田大学大学院の天児慧教授を登場させる。
それによれば、7%前後の成長時代に入ったことに対し、「6・5%でも7%の成長率でも正常」という認識を持っており、ある意味で「構造改革」に力を注ぐ姿勢がみられるという評価だ。もっとも、「高度経済成長に依存してきた経済運営のかじを切るのは難しく、不動産バブルで膨らんだ不良債権や地方政府の債務など何時破たんしてもおかしくない状態」とも指摘する。
他方、日中関係に対しては、「日中首脳会談が行われたとしても、日本と中国の関係を修復するのは困難」(天児教授)という。というのも中国は外交・軍事戦略として東シナ海の主導権確保、太平洋海域への影響力拡大を国の方針としているため、日本との妥協点を見いだすのは難しいというのである。
◆4中全会報告に暗雲
4中全会で習主席は「法による統治」を前面に打ち出した。法の下での平等を訴え、法治と徳治の結合、人民の主体的地位を掲げているが、何よりも中国共産党による領導が前提になっている点では従来と何ら変わっていない。いうなれば、社会主義的法治が前面に出れば出るほど、経済の見通しが暗くなっていくのはロシア(旧ソ連)、東欧の歴史が物語っている。
そういう意味では中国経済には「暗雲」が漂っているのは確かであろう。
(湯朝 肇)