米中共同会見で中国が示唆した太平洋分割案に言及ない「日曜討論」
◆合意内容で意見二分
北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて、安倍晋三首相と中国の習近平国家主席が首脳会談を行ったことは、大きな注目を集めた。
16日放送のNHK「日曜討論」は、日中首脳会談の成果や今後の日中関係について、岸田文雄外相や中国専門家を呼んで議論した。
番組内で意見が分かれたのが、首脳会談前に発表された4項目の合意内容にある「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し」との文言だった。
この文章があいまいな表現になっていることから、中国が国際的な場で恣意(しい)的に使い、徐々に「領土問題がある」と既成事実化を図っていくのでは、と危惧する声がある。
東京福祉大学国際交流センターの遠藤誉センター長は「文言があいまいであればあるほど、カバーする範囲も広くなり、恣意性も出てくる。中国側は、日本がついに尖閣の領有権に関して紛争があると認め、それを文字化したと発表している」と語り、単に東シナ海とせず「尖閣」の文字を入れたことを疑問視した。
これに対して岸田外相は、中国公船の領海侵入や中国の一方的な防空識別圏の設定、東シナ海のガス田開発などを挙げ、「こういう緊張した状況に対して、日中間において考え方が異なっていると表現しただけ。従来の我が国の立場に触れたわけではない」とし、尖閣諸島について言及した文章ではないと強調した。
また神田外語大学の興梠(こおろぎ)一郎教授は「日本側は絶対に領土という言葉を入れなかった。中国側はそこである意味譲歩している」と日本政府に一定の評価を与え、「緊張状態が生じているというのは、現状を描写しただけのこと」と語り、文章以上の意味はないとした。
◆米に領土明言求める
日本政府が尖閣諸島や靖国神社に関して、従来の姿勢を崩さずに約2年半ぶりの首脳会談にこぎつけたことについては、評価する声が多い。
ただ今後、中国が合意内容を基に尖閣諸島を持ち出すことがあるかもしれない。その時には、抗議なり、しっかりと対応する必要がある。それを怠ると、中国がどんどん違った意味で喧伝していく可能性があることを政府は肝に銘じてほしい。
遠藤センター長はまた、米国は尖閣諸島の施政権は日本にあると認めているが領有権についてはどちらの側にも立っていないとした上で、「なぜ日本は日米同盟がありながら、米国を説得して領有権は日本にあるのだと言わせないのか」と述べ、米国に日本固有の領土だと明言させることを求めた。
岸田外相は「米国は、尖閣諸島は日本の施政下にあり、日米安全保障条約の対象であると確認し、そして日本の施政権を害する行為に反対するということを国際社会に明らかにしている」と述べ、実質的に米国が日本の立場を取っていることを説明して反論。
ただ、司会の島田敏男・NHK解説委員が「米国の領有権と施政権の使い分けを日本は容認しているということか」と質問した際には、「日本政府としては米国のコミットメントを信頼しているということだ」と述べるにとどまり、領有権を米国に認めさせるかについては、はっきりと答えなかった。
◆中国が目論む分割案
番組はほかにも、小笠原諸島周辺での中国漁船によるサンゴ密漁や日中の海上連絡メカニズムなどについて話が及んだが、一つ足らない点があった。米中首脳会談で顔をのぞかせた、中国の最終的な狙いだ。
習国家主席は、オバマ米大統領と12日に会談した後の共同記者会見で「太平洋は十分広いので、米中が共に発展することができる」と述べ、中国がかねてから目論む「太平洋を分割して管理する」との内容を意図した発言をした。
太平洋を分割して勢力下に置きたいと中国が米国に提案したことは、2007年8月に米紙ワシントン・タイムズが報じてからよく知られるようになった。
今では中国が公式会見の場でこの話を持ち出すまでになっている点は見逃せないだろう。もちろん米国はこの意見にくみしないが、日本は中国の「太平洋分割案」に関連した発言について強く抗議する必要がある。
中国の最終的な狙いは尖閣諸島だけでなく、太平洋の覇権であることを理解しなければ、本質を見誤る。番組では合意事項の「異なる見解」の分析より、米中共同会見での発言から中国の真の狙いを明らかにした上で、今後の日中関係を考えていく視点が欲しかった。
(岩城喜之)