中国の赤サンゴ密漁船を海保特殊部隊が急襲と報じ目を惹いた文春
◆本当なら素晴らしい
小笠原近海に集結している夥(おびただ)しい中国密漁船。彼らの密漁の意思を挫くほどの厳しい罰則もなく、中国側の対処も当てにできずに、赤サンゴという高価な資源を乱獲されるのを、ただ遠くから指をくわえて見守るだけが日本のできることなのか――といささか失望していたのだが、驚くべき記事が週刊文春(11月20日号)に載っていた。
海上保安庁の特殊部隊が中国密漁船を急襲、逮捕して、横須賀へ連行中だというのだ。「海保の特殊部隊」とはあまり聞かない組織だ。同誌によると、「通称、SSTと呼ばれ、海保でも極秘中の極秘扱いの部隊のようです」(政府関係者)という。「世界の特殊作戦部隊と同レベルにある」とされ、「オーストラリアなどの特殊部隊と合同訓練をした時」には、「急襲、武器使用、制圧、被疑者の選択といった一連の行動が洗練され、完璧であると高い評価を受けた」というのだそうだ。
そのSSTが中国密漁船を襲った。同誌は「十月五日朝、小笠原諸島のある港から出航した漁船の船長」の“目撃談”を取材している。日本の排他的経済水域(EEZ)内で赤サンゴの密漁をしていた密漁船の上空に、白いヘリコプターがやってきて、特殊部隊員が次々に船に降下、抵抗する中国漁船員を「なぎ倒して」制圧していった、というのである。
数時間後、「安倍首相を直接補佐する官邸の政府関係者」に1枚のメモが渡される。「密猟をしていた中国漁船を急襲、制圧。船員たちを現在、横須賀へ連行中」という内容だったと同誌は書く。
「極秘の特殊部隊が出動し、中国籍の漁船を急襲、制圧した事態は、日本の治安史上、極めて大きな出来事である」と同誌は強調する。本当ならば、すごいことだ。
これまで何件かの中国密漁船逮捕は伝えられているが、そこに「特殊部隊」が投入されたということは他のメディアでは報じられていない。
◆極秘扱いの出動に謎
折しも10日から中国北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合が行われていた。就任以来、一度も実現していない安倍晋三首相と習近平中国国家主席との会合がどのように行われるかが注目されていた“敏感な”時期だっただけに、「特殊部隊による中国密漁船員逮捕」が大っぴらに報じられることは日中双方とも避けたかったのだろう、との想像はつく。
また、逮捕時にどちらかに負傷者が出るという不測の事態を絶対に避けたかったということも理解できる。ならば、どうしてAPECの前に「出動」が行われたのか、の分析も欲しいところだ。
ただし、同誌はこうも書いている。「出動そのものが常に極秘扱いされているのがSSTだ」と。そして、「海自の情報部門幹部」は、「赤サンゴを密漁していた中国漁船に対し、SSTが複数回出動して急襲、撃滅した可能性を、海自の各種センサーの情報から指摘」したという。
さらに、「十年以上経っても未だに極秘扱いされている『出動』がある」という例も持ち出して、「SSTによる中国密漁船逮捕」のニュースが出てくることはないとにおわしている。
◆事態深刻化を懸念か
黄海では、中国密漁船の抵抗で韓国海上警察官が死亡するという事件も起きている。何十隻も横列し向かってくる恣意的な集団行動というおおっぴらな違法操業で、しかも、物を投げる、材木で殴りかかるなど、密漁に来ている中国人はなりふり構わずの必死の抵抗をしてくる。
海保の特殊部隊は「抵抗を即座に封印し、犠牲者を出さない」という難しい任務を命懸けながら、整然と行ったわけだ。
中国は、「海保と中国漁船との衝突があった場合に備えて、巡視船を急派する準備を進めているという。『自国民保護』といういつもの大義名分をふりかざすはずだ」と海自幹部は同誌に語る。今度は、漁船ではなく巡視船が大挙してやってくる可能性もあるというわけだ。そうなると事態はより深刻化する。特殊部隊出動をおおっぴらにできない理由がこの辺にありそうだ。
(岩崎 哲)





