安倍政権の女性政策の危うさを浮き彫りにした「プライムニュース」

◆経済先立ち疑問呈す

 衆議院の解散風にあおられて、アベノミクスの看板政策の一つ、女性活躍推進法案の今国会成立は絶望視されている。しかし、少子化が続くわが国では、女性が出産しても仕事を続けられるような環境づくりは、重要課題であることに変わりない。

 12日報道のBSフジ「プライムニュース」は「永田町にもう一つの風 どこへ行く? 女性活躍」と題して、この問題を取り上げた。ゲスト出演者は、内閣府副大臣(女性活躍担当)の赤澤亮正と、詩人で社会学者の水無田気流の2人。

 安倍政権は2020年までに、会社の管理職など指導的地位にある人の30%を女性にするという数値目標を掲げている。赤澤はまず、この背景について女性の人権改善と経済成長の二つの狙いがある、と説明した。

 女性の人権改善では、男女共同参画基本法(1999年)や男女雇用機会均等法(1986年)の施行以降、「長い間取り組んできたが、なかなか上手くいっていない現状」というのだが、安倍政権はその原因をどう分析しているのか。せっかく担当の副大臣がスタジオに来ているのだから、司会者がそこを突っ込まなかったのは残念だった。

 もう一つの経済成長は、少子高齢化によって、今後生産人口が減少する中で、それを補うのに「女性の力を借りるしかない」というのだ。そして「経済成長で、女性の活躍を柱に立てたというのは、私の承知している限り初めて」と、赤澤は胸を張った。しかし、そこに疑問を呈したのは水無田。「あまりにも『経済成長のために』というのが先立ち過ぎているのでは」というのである。

◆女性への評価が低い

 水無田はこうも言う。「あと『女性の活躍』というのですが、日本の女性は十分活躍していると思う」と。どういうことかと言えば、家事をはじめとした無償労働を含めると、男性よりも女性のほうが長く働いている。そればかりか、NPOの担い手やPTA・町内会の活動など「地域の良好な人間関係を維持するソーシャル・キャピタルの担い手」としても活躍しているのが女性だというのである。

 問題なのは、こうした女性の活躍についての社会的な意義や価値に対する評価が低いこと。そして、非雇用市場にいる女性を雇用市場に押し出そうとシャカリキになっていることのほうが問題だ、と批判する。

 これは的を射た指摘だ。安倍政権の考える女性の活躍が減少する生産人口を補うためのものだとすれば、その向かう先は女性の労働参加になるのは必然だろう。

 では、アベノミクスが目指す女性の活躍の究極目的は何か。赤澤は「女性の幸福」という。

 「仕事をやっても楽しい。育児をやっても楽しい。夫も手伝ってくれるということが上手くまわって、男女ともに幸せな状態になる。選択にもよるが、仕事も子供も持ちたいという夫婦が幸せになれる。仕事を選んで子供はいらないというのであれば、それも選択です。一生独身でという人も構わない。各人がそれぞれ幸福を感じられることが最終ゴールになってくる」  もちろん、女性活躍推進法ができさえすれば、どんな選択をする女性も幸せになる環境がすぐに整うと言っているのではないが、それにしても抽象論に走り過ぎているきらいがする。女性政策の理念が見えてこないだけでなく、現状分析に偏りがあり、浮ついた感じさえするのだ。

◆数値目標固執に懸念

 赤澤と水無田で意見が一致したのは労働時間を短縮しなければならないという点。生産性を高めて労働時間を短くすれば、妻も夫も家事・育児に投入する時間が増える。そんな夫婦は子供を出産する割合が高くなる。そのためには、企業風土やトップの意識変革が必要という。

 赤澤はそのためにも「管理職3割」の数値目標が重要だと強調する。つまり、女性を管理職にするには、人材育成から見直し、女性が実力を付けるようなシステムを整える必要がある。もしそうしなければ、実力のない管理職が増えて、会社は大打撃を受けることになるというのだ。

 理屈ではそうなのだが、理屈通りに動かないのが日本の社会。数値目標に固執すると、経済成長だけでなく日本の家庭もダメになり、少子化がさらに進む懸念がある。今必要なのは地に足を付けた発想なのではないか。(敬称略)

(森田清策)