僅差決定の日銀追加緩和に評価の3紙も副作用には強い警戒感示す
◆評価した読・産・日
先月末の31日、日銀は金融政策決定会合で追加緩和策を、賛成5反対4の僅差で決定した。2013年4月のいわゆる「異次元の量的・質的金融緩和」以来約1年半ぶりである。
米国の量的緩和終了決定の直後ということもあり、為替市場は一時1㌦=115円台にまで円安・ドル高が進展。株式市場も日経平均株価が7年ぶりに1万7000円台に高騰した。その後も円相場は1㌦=114円台、日経平均は1万6000~7000円台が続く。想定外の追加緩和で「市場のムードが一変した」(市場関係者)という。
この追加緩和を新聞はどうみたか。社説の見出しを並べると次の通りである。
朝日(1日付)「目標に無理はないか」、読売「脱デフレへ強い決意を示した」、毎日「泥沼化のリスク高まる」、産経「今度こそ脱デフレ確かに」、日経「異次元の追加緩和に政府も応えよ」、東京「危ない賭けではないか」、本紙(4日付)「この時期に適切だったのか」である。
評価したのは読売、産経、日経の3紙。評価の理由は読売の見出しの通り、「何としてもデフレ脱却を実現する。その強い決意を、日銀が思い切った政策で示した」(読売)ということ。
「アベノミクス」で回復していた景気は4月の消費増税以降、家計の消費支出が6カ月連続で減少するなど内需の低迷が続く。物価上昇率は消費増税分を除いて一時1%台半ばまで回復したが、原油価格下落の影響もあり9月は1・0%。「2年で2%程度の物価上昇」を目標とする日銀にとり、目標が遠のきかねない状況だったからである。
追加緩和で「今度こそ…」(産経見出し)というわけで、日経は「政府や企業も日銀に応え、日本経済の本格的な再生のための努力を倍加すべきだ」と訴えるのである。
◆円安への警戒で一致
一方、批判的なのは本紙を含め朝日、毎日、東京。毎日の言う「泥沼化のリスク」とは、「追加緩和を繰り返し、出口がますます遠のきはしないか」「異例の政策が長期化することによる弊害」である。
弊害は例えば、量的緩和により日銀が国債を大量に購入することでの債券市場のゆがみ(マイナス金利の異常事態)や、日銀が政府の借金を丸抱えしていると市場から受け取られかねないこと。また、ドル高に作用する米国の量的緩和終了も相まって円安が一層進めば、輸入品の値段がさらに上がること、などである。
特に円安の一段の進行については、評価した3紙も指摘し、警戒を呼びかける。追加緩和が僅差の決定だったのも道理である。
読売は追加緩和で「円安に拍車がかかっているのも気がかりだ」として、食品や原材料の輸入価格上昇による家計や企業の負担増に「十分な目配りが求められる」とした。
日経も、追加緩和を機に円安が急激に進めば、輸入物価の上昇を通じて消費者物価は上がりやすくなるが、賃金や雇用の拡大が伴わないと望ましいデフレ脱却とは到底いえないだろう、としたが、円安の進行を現在進行形で捉える読売などと違い、日経は「急激に進めば」と仮定形である。
日米の金融政策の方向性の違いから、円安・ドル高が進みやすい状況にあることは自明なのに、現状認識に厳しさが感じられないのはどういうわけなのか。
◆求むべき消費刺激策
追加緩和を評価した読売だが一方で、「資金供給のペースを上げることで、設備投資の活性化など、景気の押し上げ効果がどこまで出るのか疑問視する声もある」とも記す。
民需が回復しないと、資金需要は高まらず、金融緩和の効果も限られるからで、読売など3紙は内需回復のため政府に規制緩和や法人税実効税率の引き下げなど、成長戦略の着実な推進を訴える。
確かに、それはそれで一理ありそうだが、現在の内需不振はGDP(国内総生産)の6割弱を占める個人消費の、消費増税による落ち込みが主因である。さらに消費税率のアップと円安による物価上昇に所得の上昇が追いつかず実質所得のマイナスが続いていることも影響している。
とすれば、求むべきは中堅所得層以下への消費刺激策であり、企業の賃上げを促す政策である。家計や多くの中小・内需関連企業の負担を増やし、一部の輸出関連企業にしかメリットを及ぼさない円安誘導策ではないはずなのだが。
(床井明男)





