首相と枝野氏の衆院予算委論争で過激派名称の有無が分かれた各紙

◆論争を詳報した産経

 枝野幸男民主党幹事長と「極左暴力集団」の革マル派との関係をめぐって、ちょっとした論争が起こっている。産経だけが紙面を割いており、他紙にはほとんど載っていないので、この論争を知らない人も多いようだ。

 産経6日付は「首相×民主 政治とカネ・誹謗中傷…」との見出しで論争を詳報した。10月30日の衆院予算委で枝野氏が安倍晋三首相の閣僚任命責任を追及したのを受けて、首相は革マル派とJR総連との関連を指摘し、「(枝野氏が)殺人までする危険な反社会な組織活動家と関わりのある団体から資金の供与を受けるのは問題だった」と反論し、フェイスブックでも追及した。

 これに対して枝野氏は誹謗(ひぼう)中傷と反発。海江田万里代表が「首相は誹謗中傷を繰り返している」と糾弾するなど民主党幹部も加勢し、「首相×民主党」の構図になってきたとしている。

 論議された衆院予算委はNHKで全国中継されており、この日の見せ場だったそうだ(あいにく筆者はみていない)。それにもかかわらず翌31日付の各紙の取り上げ方は疑問だと、阿比留瑠比(あびるい)・政治部編集委員は指摘している(6日付「阿比留瑠比の極言御免」)。

◆「革マル」隠す朝・毎

 産経と読売は革マル派に言及したが、毎日は「過激派」と名指しを避けた。朝日は「政治とカネ 与野党応酬」との見出しで大きな記事を掲載したが、首相と枝野氏の革マル派に関するやりとりは省いている。

 日経は革マル派に直接触れず、「中傷とも受け取られかねない指摘をした」と民主党に同調するかのように首相を批判した。阿比留氏はJR総連について平成23年度警察白書も「革マル派が相当浸透している」と指摘しており、日経はこの事実を述べただけの首相を記事で中傷したことにならないかと首を傾げる。

 最も不可解なのは朝日だ。毎日は続報で革マル派と書いたが、朝日は書かず、31日付で枝野氏の「連合加盟の産別単組から献金を合法的に受け取ったことについて、何ら批判される筋合いはない」「これこそ誹謗中傷そのものではないか」という反論だけを掲載した。これではまるで首相が一方的に枝野氏に攻撃を仕掛けているような印象を与える。阿比留氏は「革マル派はタブーなのか」と言うが、もっともな批判である。

 ところで問題の革マル派とはいかなる団体なのか。正式名は「日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派」という、まるで早口言葉に出てきそうな長ったらしい名称の極左集団で、対立する中核派(こちらは「革命的共産主義者同盟全国委員会」)と内ゲバを繰り返し、数々の殺人事件を引き起こしたことで知られる。

 かつて国鉄の労組はそうした極左集団の牙城で、「鬼の動労」は革マル派だった。それが今のJR総連にほかならない。中核派は動労千葉を握り、現在は動労総連合(動労千葉)と名乗って同派の拠点としている。ちなみにJRにはこのほかJR連合と国労(共産党系)がある。

◆労組通し民主に影響

 革マルが主導するJR総連は裏で会社側と結んで衝突しないので一見、穏やかそうだが、その正体はホームページを開けば一目瞭然で、「オスプレイ反対」「反原発」「9条を壊すな」等々の左翼スローガンが並んでいる。他労組の組合員への暴力事件も絶えない。不祥事を繰り返すJR北海道も8割以上の社員がJR総連に加入しており、会社側との癒着が事故多発の一因と指摘されている。

 そんなJR総連と枝野氏はただならぬ関係にあった。平成8年の総選挙の立候補に際してJR総連側と「(JR総連の)綱領・活動方針を理解し、連帯して活動する」との覚書を交わし、約800万円の献金を受けていた。

 このことを枝野氏は民主党政権の官房長官時代の23年2月に国会で追及され、「今後は献金の申し出があっても断る」と答弁していた。ならば、安倍首相の追及に「献金を断っている」と応えればいいものを誹謗中傷と気色ばむところをみると、すねに何か疵(きず)があるのだろうか。これは枝野氏だけの問題ではない。民主党は労組を通じて極左集団の影響を少なからず受けている。ここを他紙も見逃してはなるまい。

(増 記代司)