ダムの今日的な役割と見通しを語るべきアエラ「ダム鑑賞の秋」特集

◆奈良俣ダムは“女王”

 「ダム」と言えば筆者などは、富山県東部の黒部川上流の黒四つまり黒部ダムの雄姿をすぐ思い浮かべる。黒部ダムは高さ(堤高)186㍍、今でも日本一を誇る。竣工年は1963年で、その間作業員延べ人数は1000万人を超え大きな話題になった。後に人気俳優、石原裕次郎主演の映画「黒部の太陽」もヒットし、当時、現地を一目見たいと観光客が黒四につめかけた。

 ところが、今日の傾向として、コンビナートや原子力発電所の巨大施設は都市から離れて、次第に遠い地域に建設されるように、機械技術的なものは都会の異物としてとらえられることが多くなった。もちろんダムはその性格上、山間に立地され、一部の人気のダム以外に観光地として足を運ぶには交通の便もよくない。

 そんな中で、意外と思ったのは、アエラ(11月10日)は「色づく山々/ダム鑑賞の秋」の写真記事。利根川水系鬼怒川の「川俣ダム」同水系楢俣川「奈良俣ダム」など七つのダムの写真を載せその外観の魅力を引き出している。ダムの中には女王も存在するそうだ。高さ158㍍の奈良俣ダムがそれで、いくつもダムを抱えるダム王国の群馬県利根川上流域にある。

 「この国の“女王”との出会いは鮮烈だった。切り立った山肌沿いの右カーブ。川の流れによって視界が開けたその先から、雪山のような巨大な塊が視界に飛び込んできた。奈良俣ダムである。その白い“体躯(たいく)”が色づいた秋の渓谷に囲まれ、美しさが際立つ。大きさも女王の名にふさわしい」とべたほめのリポート。

 「その白色は、ダムの堤を主に構成する花崗岩に由来する」のだという。花崗岩はダムから約4㌔離れた山から採掘され、砕かれた岩を一つひとつ積み上げてできた。同ダムの管理所長も登場し「自然との調和とどっしりとした安定感が、女性のような柔らかい印象をもたらしているのでしょう。訪れる人の中には、母親のイメージを重ねる人もいる。(後略)」と解説している。

 ほか、アーチ式の八木沢ダムについて「理知的な印象の反面、たまった水を空中に拡散させて豪快に放流することから、“王さま”の雰囲気を感じる人もいるだろう」と賛美を重ねている。

◆巨大公共事業は反対

 ただし、記事の見出しとリード文で「批判もあるけど、その美しさは一級品/巨大公共事業への批判はあるが、建造物として高い評価を得ているダムも多い」とダム事業に対し、批判の“一札”を入れているのは、いかにも朝日らしい。深読みすれば、原発再稼働への歯止めの先手を打って、ダム礼賛を企画したのかもしれない。

 外観はともかく、技術の巨大施設にはどんなものにも光と影がある。ダムについてもそうで、全国で2700基あるダムの今日的役割とその見通しについて、今こそ論じる必要がある。

 戦後、建設省は河川総合開発を国土復興の要として強力に推進、その要の要がダム建設だった。莫大な費用は受益分野それぞれが分担することで進められた。ダムはその中に水を貯めておけば、農業・生活用水に供給でき、洪水防止のための調節弁にもなり多目的効用がある。

 例えば富山県における発電所は、黒部川、庄川、神通川水系に集まっているが、特に黒部川水系では91万㌔㍗の電力をつくっており、資源小国の日本にエネルギーを提供し続けてきた。また洪水防止で働いてきた。

 しかしダムに頼りすぎて、防災のための砂防や、その砂防のために上流に森林を整備するということを怠った面がある。そのため今日の異常気象で鉄砲水の発生が全国各地で見られるようになった。豪雨の際には土砂や石をまきこんだ鉄砲水が平野を襲うことになりかねず、改めて防災対策が必要だ。

 また河川を通って上流域から海に運ばれるべき土砂がダムに堆積し、河口周辺の海岸に土砂が補給されず、やせてしまう現象も各所で出ている。

◆原発と水力の両立を

 ダムの寿命はまちまちだが、数十年でその機能は低下するといわれる。そのため上流にさらに別のダム建設の必要がある。発電に関しても今後、原発と水力発電でその役割を合理的に位置づけ正しい見通しをもって計画を立てるべきだ。

(片上晴彦)