沖縄県知事選を大局的に解説して「辺野古」で論戦を求めた読売社説
◆保守分裂に革新介入
沖縄県知事選(16日投開票)が現地でヒートアップしている。だが、東京では地方選挙の一つと関心の度合いはいまいち。その重要性も理解されているとは言い難いが、他の知事選とは違い、日本の外交と安全保障の行方に大きな影響を及ぼすのである。
沖縄県知事選に立候補したのは4人。現職の仲井真弘多(ひろかず)知事が3選を目指し、翁長雄志(おながたけし)・前那覇市長、喜納昌吉(きなしょうきち)・前参院議員、下地幹郎・前郵政改革相の新人3氏が挑み、最大の争点は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古(名護市)移設問題とされる。
最大争点に対する4氏の主張の違いははっきりしている。仲井真氏は移設容認、翁長氏は反対、下地氏は県民投票で決める、喜納氏は先に知事が手続きに沿い承認した埋め立て承認を撤回する、というものである。
だが、それぞれの候補を支援する政党間の構図は複雑で、保守と革新入り乱れての中で公明、民主の与野党が自主投票とするなど混戦模様となっている。報道も、仲井真氏と対決する翁長氏は元自民党県連幹事長だから「保守分裂の選挙戦」としたり、翁長氏と革新政党が手を組む「保革共闘」に焦点をあてたりと混乱。それでも、選挙戦は仲井真氏と、翁長氏を担いで保守食い込みを狙う革新みこし「オール沖縄」とがぶつかる保・革対決に他ならない。
告示当日の10月30日に社説を掲げたのは毎日、産経、小紙の3紙、翌31日が読売、朝日の両紙である。遠まわしながら読、産、小紙の3紙が仲井真氏、朝、毎が翁長氏支持と色分けできることは容易に察しがつこう。
◆現実的解決が県益に
読、産、小紙の3紙はいずれも沖縄の立地が日米安保と日本の安全保障において重要性をもつという大局的観点から、最大争点の辺野古移設について言及した。小紙は、沖縄の本土復帰が「日米安保条約の改定によって日米同盟を選択した上で実現した」ことから「沖縄の基地問題は日米安保体制と不可分」である基本から説明。
「少なくとも県外」と煽(あお)って感情論で動いた鳩山由紀夫内閣が、迷走の末に結局は辺野古移設に回帰したことを例に「感情論では政治責任を果たせない」と指摘した。沖縄県に属する尖閣諸島沖での中国の露骨な行動を前に、日米安保が「中国に対する抑止力として働いていることは沖縄県民の安全にも寄与している」ことを強調。「(問題は)県民にとって当面する問題の解決に必要な政策は何かであり、どの候補の公約が最善策か」の冷静な判断を求めた。
産経も、辺野古移設が日米両政府間の重い約束事だと強調した上で「中国の軍事的動向を冷静に考えれば、沖縄における米軍のプレゼンスが、沖縄自身を含む日本の平和と安全、さらには東アジアの安定に欠かせないことはわかるはず」だと訴えた。そして「住宅密集地にある普天間飛行場の危険性を除くには、辺野古移設の実現こそが現実的な解答だ」と沖縄にとってもプラスになることに理解を求めたのである。
「沖縄の米軍基地負担をいかに軽減するか。各候補者は、責任ある論戦を展開してもらいたい」と冒頭、書き出した読売が、各候補の負担軽減策を検証しその是非を丁寧な解説で示したのは分かりやすい。前回で県外移設を主張した仲井真氏が方針転換し、昨年末に辺野古沿岸部の埋め立てを承認したことについては産経と同様に「市街地にある普天間飛行場の危険性除去を最優先したため」と支持。「辺野古移設は、基地負担の軽減と米軍の抑止力維持を両立させるうえで、最も現実的な選択肢だ。実現には大きな意義がある」と評価した。
一方で、移設反対の候補が、反対ならどうするかの代案を示していないことに論及。「普天間の危険性を除去する具体的な代替案を示す必要がある。沖縄全体の基地負担の軽減が遅れるリスクについても、県民にしっかり説明」する責任を迫った。また、公明、民主両党の自主投票にも「無責任ではないか」と批判した。正論である。
◆中国の脅威欠く朝毎
朝日と毎日に全く欠落しているのは、前記3紙いずれもが指摘する尖閣諸島をめぐる中国の脅威と日米安保による安全保障の視点である。朝日はもっぱら仲井真氏の埋め立て承認にかじを切った方針転換による「保守分裂」などを言い立て、「基地負担の軽減策」も政府の露骨な肩入れだと批判した。一方で、革新の「オール沖縄」には言及なし。読売が指摘するように、具体的政策を出さないのだから、持ち上げようがなかったのだろう。
小紙は「『オール沖縄』は欺瞞(ぎまん)」だと喝破している。
(堀本和博)





