選挙民の意識改革も問われている新潮の小渕優子氏の政治資金追及

◆政治に残る古い因習

 週刊新潮(10月23日号)が報じた小渕優子経済産業相(当時)の「デタラメすぎる政治資金」の特ダネ記事をきっかけに、新聞や週刊誌が次々に閣僚の“粗探し”を始めている。出るわ出るわ、改造前にはほとんどなかった不祥事や疑惑が次々に出てきて、安倍内閣を揺さぶる事態になっている。

 「大臣の首を飛ばした」というのは、新聞や週刊誌の「勲章」でもある。隠れた不正や正すべき因習を追及するのはジャーナリズムの使命だ。ただ、そればかりやり過ぎると、国政運営の妨げになり、ひいては国民に不利益をもたらすこともある。

 しかし、今回提起された問題、特に小渕氏の「政治資金」や「寄付行為」は、古い因習に浸かっていた政治家と、それを当然のごとく求めてきた選挙民の意識をガラリと変えていくきっかけになるかもしれない。

 11月6日付の週刊新潮が取り上げたのは「小渕優子の遵法精神」である。小渕事務所の所長が選挙区内の男性に「数千円」のネクタイを贈ったという。居酒屋での飲み代を持ってもらった「個人的な」見返りとしてだ。

 今までの政治家(事務所)と選挙民との関係からすれば、「これの何が問題なのか」という話だ。むしろ、このケースとは立場を換えて、飲み代など事務所が持つのが当然という風潮があったことは否めない。むしろ、「お包み」(現金=実質的な飲み代)を出さない政治家など、「付き合いが悪い」と選挙民から嫌われてしまうのが実情だ。

◆可能性ある議員辞職

 こうしたやりとりについて、「神戸学院大学法科大学院の上脇博之教授」は、「軽率の誹(そし)りは免れない」と断じる。ワインや様々な配り物について、その「違法性について、あまりに無頓着。いかに遵法精神が欠如しているかということになる」と指摘する。

 本来はそうなのだ。選挙民は、政治家が「ご祝儀」を出したり、地域イベントに「金銭的」協力をすることを当然のごとく求めてきた。特に一つの選挙区で多数の候補者がしのぎを削る中選挙区制ではそれが顕著だった。

 小渕氏の地元群馬県では、以前は「福田、中曽根、小渕」といずれも首相を務めた大物が一つの選挙区(中選挙区時代の群馬3区)でひしめいていた。いきおい、選挙民とのつながりも深く、「普段の付き合い」が欠かせないため、事務所から地域への“心遣い”が当たり前だった。

 小選挙区制に変わっても、その「古い因習」は変わらなかった。小渕氏も「それが当たり前」のように思っていて、法に触れるという意識は希薄だったのだろう。「遵法精神が欠如」していると言われても仕方のない古い体質、体制が今日まで続いていたと思われる。

 実際、これらの報道を見て、居住まいを正す政治家(事務所)や選挙民は少なくないはずだ。群馬に限らず日本全体にそうした風潮が蔓延(まんえん)している。

 今週、新潮が持ち出したのは「バスタオル代の虚偽記載」について。小渕議員の「関連団体で『自民党群馬県ふるさと振興支部』」が「組織対策活動費の名目」で「83万円余りの支出」をしていたが、当該商店に確かめるとその事実がない。これが「政治資金規正法の虚偽記載」になるのか、「領収書の改竄(かいざん)」になるのか、「刑法の私文書偽造罪」になるのか、という話。小渕事務所は「疑惑の宝庫」と新潮はいう。

 こうなると、「道義的にはもはや議員を続けるのは難しい」と「日大法学部の岩井奉信教授」は同誌に語る。派内や党内、野党でさえも「議員辞職」を厳しく求める声は出ていないようだが、地元では「一旦議員辞職して、次の選挙で出直したら」という声もあり、小渕氏が辞める可能性はある。

◆他紙も始めた粗探し

 週刊文春(11月6日号)は、小渕氏の「ワイン」を告発したのが、群馬選挙区内の「中曽根支持者」だとの記事を載せているほか、西川公也農水相の「収賄で逮捕」経歴、大塚高司国交省政務官の「外国人献金」、江渡聡徳防衛相の「脱法献金」などの疑惑を報じている。

 サンデー毎日(11月9日付)はさらに西川農水相の「ファミリー企業に血税還流」疑惑を報じており、安倍内閣はガタガタだ。週刊誌の“粗探し”は収まりそうもない。

(岩崎 哲)