半世紀ぶりの国産旅客機お披露目に社説掲載は日経、東京2紙のみ

◆声援送り覚悟を問う

 三菱航空機が開発中の国産旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」が、このほど公開された。国産旅客機のお披露目は、1962年に初飛行し、73年に生産終了となったプロペラ機「YS11」以来、実に半世紀ぶりである。

 MRJは座席数が70~90、近距離路線向けの小型ジェット旅客機。2008年に事業がスタートし、今回ようやく完成。今後、15年に初飛行、17年から機体納入の予定。飛行試験を日本と米国で行い、初号機は他社に先駆けて受注を決めたANA(全日本空輸)に納入するという。

 半世紀ぶりの国産旅客機、しかもジェット旅客機としては初めてのお披露目に、社説での論評は、日経(19日付)と東京(23日付)の2紙のみ。寂しい限りである。

 見出しは、日経が「国産旅客機を競争力ある事業に伸ばせ」、東京は「まさに日本が試される」。日経は事業の成功へエールを送り、東京は「正念場はここからだ」と覚悟を問うことに重きを置いた内容になっている。

 日経は「航空機は水準の高い工業技術の結晶だ。開発する意義は大きい」と強調するが、その通りである。

 工業立国あるいは科学技術立国として発展してきた日本だが、唯一と言っていいほど欧米に立ち遅れているのが航空機産業である。

 先の戦争で敗れ、GHQ(連合国軍総司令部)による航空禁止令によって研究開発は禁止、設備は破壊され、「空白の7年間」を余儀なくされたからである。

◆ビジネス重視の日経

 禁止令解除後も、YS11の開発に必死に取り組むが、欧米との差は埋めがたく、日経が記すように、米ボーイングの国際共同開発に何度も参加し、主翼や胴体など重要な部位の製造も任されるようになっているとはいえ、「どうしても下請けの域を出ない」(日経)のが現状である。

 そんな中でのMRJお披露目。日経は、「良い飛行機をつくることはもちろん、世界の航空機メーカーに伍して市場を獲得し、投資を回収するビジネスとして成り立たせる力が試される」として、開発の遅れからずれ込んでいる「引き渡しをこれ以上遅らせないこと」や「教訓を引き継ぐことも忘れてはならない」と指摘する。YS11が「航空機として一定の評価を得ながら、10年足らずで量産中止に追い込まれた」(日経)からである。

 同紙は、「MRJと同規模の機種で先行するブラジルやカナダなどの企業に競り勝つコスト管理や販売・保守の力が欠かせない」と強調するが、同感である。

 一方の東京。同紙も、MRJが燃費性能や静粛性などから、これまでにANAや日本航空をはじめ米国、ミャンマーのエアラインなどから407機を受注するなど「新規参入ながら上々の滑り出しを見せている」と評価する。

 ただ、同紙はそれでも、「世界との開きが見て取れる」とする。「国産」とはいえ、「国産部品の比率は胴体や翼を中心に、価格ベースで約三割にとどまる」、また「燃費や静粛性で大きな要素となるエンジンは、米メーカーの最新型を使う。競合メーカーも同じエンジンを採用すれば、MRJの優位性は薄れてしまう」からである。

◆郷土愛から叱咤激励

 さらに東京は、メーカーだけでなく、「国の安全審査体制も課題」という。日本は前述のように、航空機開発に半世紀のブランクがあるといわれ、「国際的に信用される審査のできる人材も足りない」(同紙)のである。厳しい現状を記す東京だが、もちろん、エールを送ることも忘れていない。

 現在、日本の基幹産業となっている自動車産業も、「当初は試行錯誤の連続だった」(同紙)からである。「MRJも機体納入まで長い道のりとなるが、初号機完成を足場に着実に課題を乗り越えていってほしい」で同紙は社説を結んだが、同感である。

 東京は中日新聞東京本社が発行元。その中日は今や世界一の自動車メーカーとなったトヨタ自動車の地元紙であり、MRJ事業を進める三菱航空機(名古屋市)、その親会社でMRJを製造する三菱重工業小牧南工場(愛知県豊山町)の地元紙でもある。その意味で、東京のエールは中日が示す郷土愛とも言える。

(床井明男)