新聞大会決議「正確で公正な報道」を望めぬ朝毎の秘密保護法記事
◆1面写真に左翼デモ
特定秘密保護法の運用基準が閣議決定され、12月10日に施行される。これに対して各紙は「知る権利」が侵害されないか、懸念を表明している。新聞の立場として理解できるが、そもそも秘密保護法がなぜ必要だったのか、そのことについて一言もない新聞があるのは解せない。
確かに同法を乱用して、何でも秘密にするようなことがあっては民主主義の根幹が揺らぐ。だが、一部新聞はそうした懸念を通り越して、やれ戦前に戻るだの、戦争の準備だの、ありもしないことを書き立て、センセーショナリズムを地で行った。
ちょうど昨年の今頃のことだ。それから1年近くを経て、この間、朝日の「吉田証言」「吉田調書」の二大誤報が社会問題化し、新聞への信頼を揺るがす事態に至った。それを受けて、さきの新聞大会ではこんな決議をした。
「私たちが規範とする新聞倫理綱領は、正確で公正な記事と責任ある論評で公共的使命を果たすことが新聞の責務であるとうたっている。新聞は歴史の厳格な記録者であり、記者の任務は真実の追究である。…課せられた使命と責任を肝に銘じ、自らを厳しく律しながら、品格を重んじ、正確で公正な報道に全力を尽くすことを誓う」 実に厳粛な誓いだ。だが、秘密保護法をめぐる報道では今なお、品格を疑わせる批判記事が散見され、「正確で公正な報道」を望めないのはどうしたことだろうか。
朝日26日付(13版)は1面には「渋谷で若者『秘密法反対』」との写真入りのデモ記事が載っている。左翼団体が動員したデモ行進をあえて1面に掲載する肩入れぶりは、一般新聞ではなく機関紙を髣髴(ほうふつ)させる。
◆趣旨に触れず反対論
断っておくが、秘密保護法が特定秘密とするのは防衛・外交・スパイ活動・テロ防止の4分野に限っている。今回の閣議決定では、より透明性を確保するため潜水艦や航空機、武器・弾薬の性能、電話や衛星で収集した情報や画像、外国政府や国際機関から提供された情報など55の具体的な細目が列挙された(産経16日付)。
いずれも国の安全に関わる情報で、乱用もさることながら漏洩(ろうえい)のほうがはるかに危うい。これを「知る権利」をかざして秘密保全に反対するのは、いかなる了見からか。思想的背景を疑わざるを得ない。
ところが、朝日12日付社説「秘密法施行 『丁寧な説明』はどこへ」と毎日15日付社説「恣意的運用を防げない」は、それこそ恣意(しい)的に懸念だけに焦点を当て、肝心の安全保障については一言も言わなかった。
もとより社説は報道というより言論であり、問題を焦点化するのだから、懸念を俎上に載せることに異議はない。それでも「正確で公正な記事」「厳格な記録者」「真実の追究」を誓うなら、少なくとも同法の趣旨ぐらいは触れておくべきだろう。それを意図的(としか思えない)に欠落させるような姿勢は、「公正な記事」からほど遠い。
さすがに右派(と朝日が呼ぶ)読売にはそうした姿勢はない。15日付社説「『知る権利の尊重』を貫きたい」は懸念を取り上げるが、「日本の平和と安全の確保には、安全保障に関する情報を米国や関係国と共有することが不可欠だ。それには、政府全体で包括的な漏洩防止策を講じ、各国が日本に情報を提供しやすい環境を整え、信頼関係を築く必要がある」と記す。
◆毎日も一方的な編集
各紙の特集記事を見ると、毎日15日付「クローズアップ」と日経19日付「永田町インサイド」が対照的だった。毎日は「秘密指定 懸念残し/監視 独立性に疑問」と懸念材料だけを一方的に列挙する。日経も記事の多くを懸念に割くが、「秘密保護、欧米水準に」「安保情報、米などと共有へ一歩」と同法が制定された背景についてもきちんと書いている。
日経は「核・ミサイル開発を進める北朝鮮や、海洋進出を活発化させる中国の台頭など、日本を取り巻く安保環境は厳しさを増しており、米国などとの安保情報の共有は欠かせないのだ」という認識を示している。
秘密保護法を「言論弾圧法」として描く朝日と毎日は新聞大会の誓いに恥じないか、自問すべきだ。
(増 記代司)





