「イスラム国」問題を対岸の火事とする意識が先行した「サンモニ」
◆欧米諸国にショック
「8月豪雨」の次に火山とは誰もが予想し得なかった。9月28日朝の報道番組は、前日の土曜に起きた御嶽山の噴火と登山者救援活動に大半を費やしていた。山で自然を愛する無辜(むこ)な人々が犠牲になったことに心が痛む。
テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」に出演した火山学者の鎌田浩毅京都大学大学院教授は、「火山性微動が(噴火の)12分前で警戒レベルを1から3に上げる余裕がなかった」と絶句し、ショックを隠さなかったのが印象的だ。
同じ災禍でも戦争はある程度の予測ができる。イラク戦争後、米軍撤退局面でのイスラム教宗派紛争や民族・部族紛争が懸念されていた。ただし、思いがけない新興勢力に化けて出てきてしまったのが、シリアとイラクにまたがる「イスラム国」だ。
これまでイスラム聖戦主義はイスラム圏だけの復古主義とみなされてきた。ところが、「イスラム国」はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用して欧米の若者まで勧誘して戦闘員に仕立て、欧米人の人質を公開処刑し、その映像をインターネットの動画サイトに投稿して国際社会に衝撃を与えた。
その後も好戦的な動画投稿は続く。動画はテレビにとっては格好の材料だ。世界各地からの出身を語る志願兵ら、戦闘訓練、機銃掃射する武装車両、兵器による破壊シーンなどだ。この刺激に加え、親しげなチャット感覚の対話に感化され、過激なイスラム運動に傾倒する若者が足元から出たことに欧米諸国がショックを受けている。
◆外国人引き込む現象
TBS「サンデーモーニング」は、「イスラム国」壊滅に向けたオバマ米大統領ら欧米首脳の発言、米国を中心とした40カ国以上の有志連合、空爆作戦へのサウジアラビアなど中東5カ国の参加、シリアのアサド大統領と同政権を支持するロシアの空爆容認の態度、「イスラム国」に集った80カ国以上1万5000人の外国人戦闘員が帰国しテロを行う懸念、これを阻止するためのテロ戦闘員の渡航禁止を義務づける国連安保理決議など一連の動きを扱った。
米国が有志連合を募った「イスラム国」との戦争について、同番組に出演した西崎文子東京大学大学院教授は「必要な戦争に見えるけれども危険な戦争である」と述べ、問題の根幹として「なぜこれだけの人たちが『イスラム国』にひかれていくのか検討しないといけない」と指摘した。やはり問題意識の筆頭に上がるのは外国人傭兵(ようへい)の多さだ。
前週21日の同番組に出演した寺島実郎氏は、欧州のイスラム人口が1500万人を超え、金持ちアラブが目立つ以外は「抑圧された貧困なイスラムの人たちが鬱々とした雰囲気」だと述べ、「イスラム国」の問題は「欧州を含む世界に拡散していく問題」と捉えていた。出身国の雇用状況や傭兵収入、さらには人の国で疎外されるよりは自分たちの国を取り戻す――という感情から「イスラム国」に行き着いたなら、かなり根が深い問題である。
そのためだろうが、「日本の立ち位置」について対岸の火事にとどめたい気持ちが先行していた。寺島氏は、「日本はどの国にも介入したことがなく、武器援助をしたことがない」と強調し、「どう参画したらよいか考えなければならない」と述べた。
が、「世界に拡散する」問題は日本にも影響する。すでに軍事ビジネス目当てにシリアに渡った日本人が8月に拘束されたとみられている。同番組は有志連合の流れに集団的自衛権行使を容認する安倍政権を懸念するが、まず問題の日本人への波及を被害と加害の両面から懸念すべきだ。
◆不気味なSNS利用
中東には過去に日本赤軍という日本人テロリストを日本から出した汚点がある。テルアビブ空港襲撃で無差別殺傷事件を起こしたほか、ダッカ空港日航機ハイジャック事件では獄中のテロ仲間の釈放を要求。当時の首相は「命は地球より重い」と超法規で応じたが、テロに屈したと国際批判を浴びた。テロはあってはならないが、万一の時かつての二の舞いではならない。
欧米諸国が慌てているのは、イギリスのミュージシャンがアメリカ人を公開処刑するなど、まさかの自国の若者の“聖戦”参加だ。一昔前は不満や疎外感を共産主義が吸収し、資本主義打倒を唱えて反米闘争に動員したが、今や傭兵収入付きの聖戦主義だ。国境のないSNSがどのような“出会い”になるか分からない不気味さが「イスラム国」問題にはある。
(窪田伸雄)