「朝日」社長に苦言呈しながら「報ステ」誤報の説明責任果さぬ古舘氏
◆川内原発報道で誤報
「なぜ記者が読み誤ったのか。間違いのプロセスをきちっと説明してほしいというのがありました。そして、主体は吉田調書であり、慰安婦問題に関する謝罪というのは、いわば付け足しのような印象を持った」
これはテレビ朝日の報道番組「報道ステーション」(報ステ)の古舘伊知郎キャスターが今月11日の番組中に発したコメントだ。この日夕方、朝日新聞社の木村伊量(ただかず)社長は記者会見を開き、東京電力福島第1原発事故における吉田昌郎元所長(故人)の聴取記録(吉田調書)に関する記事を誤報と認めて謝罪。あわせて、いわゆる「従軍慰安婦」問題に関する吉田清治氏(故人)の証言を虚言として取り消したことについても謝罪した。
古舘キャスターのコメントは、この記者会見を報じたあと出たものだ。具体的には、吉田調書の内容から、なぜ「所長命令に違反 原発撤退」との誤報が生まれたのかとの記者の質問に対して、木村社長が「調書を読み解く過程で評価を誤った」と弁明したことについて述べたのだ。
朝日新聞の誤報については、東電をバッシングするための意図的な誤報だったのではないか、との疑念が出ている中では、木村社長の説明では不十分で到底納得できるものではない。したがって、これだけなら古舘キャスターのコメントは的を射たものと言える。
だが、翌日の報ステを見て、逆に古舘キャスターがテレビ・ジャーナリズムに携わる資格があるのか、と呆れてしまった。というのは、10日放送分の中で、川内原発の新規制基準への適合性審査合格についての報道で、二つの誤報を行っていたことが明らかになった。12日放送分で、古舘キャスターは謝罪したが、それがまったくの不十分な内容だったのだ。
◆事実歪める映像編集
誤報の一つは、原子力規制委員会の田中俊一委員長の記者会見で、竜巻の影響評価ガイドについてのやりとりを火山に関するものとして間違ったもの。古舘キャスターは「これはもういっさいの言い訳などできない誤りです」と謝罪した。
これは事実誤認と言い訳できなくもないが、もう一つの誤報はそんな弁解が通用しないほど悪質だ。田中委員長と記者とのやりとりのうち、同委員長の発言部分を一部カットして編集し、記者の質問に田中委員長が回答を拒絶したかのような印象を、視聴者に与えるように加工した映像を放送したのだ。
古舘キャスターは「2点に関しまして、大きな間違いを犯しました。田中委員長はじめ関係者の方々、テレビをご覧の皆様を含め、本当に心よりお詫び申し上げます」と頭を下げた。
原子力規制委員会は11日付で報ステの放送内容と、実際の記者会見の違いをホームページ上に公開したので、もはや誤報を認める以外になかったのだが、問題はなぜ田中委員長をおとしめるように事実を歪めて編集したのかの説明がまったくなかったことだ。
二つ目の誤報は単純ミスや勘違いでは説明がつかない。記者会見の映像を編集する際に、どんな意図が働いたのか。そのプロセスを説明する義務が古舘キャスターにあることを忘れてしまっては困る。
テレビ・ジャーナリズムに関わる者として、キャスターの責任を果たさなかったのでは冒頭のコメントは上辺だけのものだったのではないか、と疑ってしまう。これは、朝日新聞の吉田調書に関する誤報と、その後の木村社長の記者会見とまったく同じ構図なのである。
◆テレビとも朝日体質
報ステは、木村社長が記者会見する11日まで、朝日新聞の慰安婦に関する誤報問題を扱わず、視聴者から批判を浴び続けてきた。これもテレビ・ジャーナリズムの責任放棄の一つと言えるが、テレビ朝日の社長が朝日新聞出身であることを考えれば、その理由は概ね推察できよう。報ステの誤報と古舘キャスターの説明は、テレビ朝日にも朝日新聞と同じような体質があるということを証明した。
木村社長の記者会見を受けて、報ステは11日にやっと慰安婦問題の検証内容を放送した。その前に古舘キャスターは木村社長に対して、こんな注文を付けた。
「社長は訂正(検証)記事には自信を持っていると何回か言ったが、遅きに失したとはいえ、訂正に自信を持っているなら、余計に誤った部分について、もうちょっと事細かに謙虚に謝罪してほしかったという印象はあります」。この言葉もそっくり古舘キャスターにお返ししよう。
(森田清策)