規制委の川内原発「審査合格」で再稼働へ改めて政府の役割説く各紙

◆支持派の各紙が注文

 九州電力の川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)が再稼働に向け大きく前進した。新規制基準への適合性を審査してきた原子力規制委員会(田中俊一委員長)が「新基準を満たしている」とする審査書を正式決定したのである。

 昨年7月の申請から1年2カ月後の「合格証」だが、今後も地元自治体の同意や起動前の検査などがあり、実際に再稼働となるのは年明け以降になる見通しである。

 大きな事象だけに、各紙がそろって社説で取り上げた。日付順に見出しを並べると、11日付読売「再稼働へ課題の解決を急げ」、毎日「なし崩し的に(再稼働)進めるな」、産経(「主張」)「再稼働の加速につなげよ」、日経「川内再稼働へ首相が前に出て理解得よ」、12日付で東京「安全の合格証ではない」。

 東京電力福島原発の事故対応でいわゆる「吉田調書」をめぐる誤報、取り消し、謝罪などで大揺れの朝日は14日付で「山積する課題忘れるな」(本紙も14日付で「再稼働へ地元の不安払拭を」)である。

 再稼働を支持する読売、産経、日経、本紙、反対する朝日、毎日、東京という構図は変わらない。支持派は「大きな前進」(読売)、「再稼働への第1関門をクリアした意義は大きい」(産経)、「原発の『稼働ゼロ』の解消へ道筋が見えてきた」(日経)などと評価し、反対は前述の見出しの通りである。

 ただ今回は、再稼働に向け大きな一歩を踏み出しただけに、支持する各紙に現実的対応として、地元の不安払拭(ふっしょく)や理解の獲得に政府の役割が極めて重要であることを強調するものが目立った。

◆火山の噴火もリスク

 原発の安全性や事故発生後の対応には、国民や地元住民の間に不安視する声が依然少なくない。とりわけ、再稼働には地元の理解と協力が不可欠である。日経は「再稼働がなぜ必要なのか、万が一、事故が起きたときの態勢は万全か。これらを国が丁寧に説明し、地元の不安を拭うことに全力を挙げるべきだ」と力説するが、尤(もっと)もである。

 読売や産経、本紙も同様。原発の安全性と重要性に政府と九電は「丁寧に説明を」(読売)、「再稼働の加速には、国が前面に立って地元の理解を得ることも不可欠」(産経)などと説く。

 また、読売、日経、本紙は川内原発が持つ特殊事情にも言及し、注意を喚起する。火山の問題である。

 川内原発の半径160㌔圏内には5カ所のカルデラがあり、巨大噴火に襲われる危険性が全国で最も高いという。規制委は「運転期間中に起きる可能性は低い」としたが、専門家の一部には異論もある。

 読売は「規制委は、火山対策の検討を本格化させたばかり」との一文を記すにとどまったが、本紙は規制委の判断に懸念の声が多いことを示し、政府に対して一段の丁寧な説明で地元の不安を払拭するよう求めた。

 特に細心さが目立ったのが日経である。同紙は「原発の安全神話が崩れ、事故のリスクに正面から向き合わなければならない。だがリスクをどう評価するか国民の合意がない。それだけに規制委の丁寧な説明と政治による合意づくりが欠かせない」と指摘し、不足な点を補うよう促す。日経の細心さは再稼働反対派が示す懸念にも少なからず対処するものになっている。

 この点、産経は前述の通り、地元の理解が不可欠と指摘はするものの、火山リスクへの言及はなく、専ら規制委の審査の遅れを批判し、審査の迅速化を促すものになっている。また、同紙には原発周辺30㌔圏内の9市町の住民避難計画充実への国の協力支援などの言及もなく、日経などと比べると丁寧さに欠け、やや強引過ぎる印象が否定できない。

◆厳しい電力供給事情

 もっとも、審査の迅速化は再稼働を支持する4紙に共通した要望である。審査の遅れによる原発再稼働の遅れは、結果として、産経が指摘するように、綱渡りの電力供給による大規模停電のリスクや余分な燃料代という国富の流出、二酸化炭素(CO2)の余分の排出などを招いている。

 「川内原発の取り組みは、原発再稼働が軌道に乗るかどうかの試金石」(読売)である。そのためには、日経が指摘するように、地元の理解獲得や支援に「経産省だけでなく、政府全体で取り組むべき」で、政府の役割が重要ということである。

(床井明男)