伝統的な経営精神を学ぶ大切さを強調すべき「アエラ」の起業特集
◆政府が起業家育成へ
経済産業省は、経営支援や新たな事業資金を必要とするベンチャー企業と、大手企業や機関投資家などが直接交流するためのイベントを10月以降、全国各地で開く方針を明らかにした。高い技術や将来性のある事業を持つベンチャー企業に対して政府が「出会いの場」を提供し、一段の成長や収益向上の契機にしてもらう。地方の活性化につなげる狙いもある。
このような起業家育成の盛り上がりを見据え、アエラ9月8日号はベンチャー企業を立ち上げ活躍中の人たちを取り上げ、起業の秘訣(ひけつ)を探り出している。今回は「リクルート出身の若手ベンチャー経営者」の4人をリポート。他に14人がリストアップされ、題して「次世代ベンチャーは30代元リクが支える」。リード文で「『何でもできる』『やってみよう』の社風が、ゼロ年代の若きベンチャー経営者を育てた」と結論付けている。
生活に役立つハウツー情報サイト「nanapi」を運営する古川健介さん(33)。古川さんがリクルート時代を次のように振り返る。「これをやったら怒られるということがない。ある意味すっごいラクなんです。経営側の意思やビジョンを押し付けられた記憶もない。それより、お前は何をやりたいんだと言われ続けた」
磯野謙さん(33)はリクルート退社後、風力発電事業などの会社を経て「自然電力」社を立ち上げた。再生エネルギー発電の用地探しから建設、運用管理までを一括して行う。「リクルートのおもしろい人って、挑戦できる人なんです。覚悟の大きさが変革の大きさにつながる。そう心がけています」
◆リ社でノウハウ会得
ベンチャーの業種は、他に広告制作、訪日外国人旅行客に向けた観光ガイドツアー会社、社員のヘルスケアをグランド管理するサービス事業など、さまざま。編集部としての論評はないが、起業をやりとげ社長に収まっている人たちは①社会に出る前に既に起業の志あり②リクルート社で、鍛えられながら個人的には起業のためのノウハウを学ぶ(結果として人脈作り)③目的実現のためにがむしゃらに働くことをいとわない――といった共通の要素が見られる。
ただし、日本では、開業率(新規に開業した事業者数を存在していた総事業者数で割った比率)が 長年5%を割っており先進国の中でも最低レベルである。しかも起業成功率も欧米と比べるとかなり低い。記事にあるように、起業に成功するには、起業前に就業して鍛えてもらう企業を見つけること。その上で大企業では取り扱わないいわゆる“すきま産業”の業種に果敢に挑戦することが挙げられる。
その一方で、次のような数字もある。日本には100年以上続いている企業が2万6000社もあり、続くドイツやイギリスは2000社程度で、わが国が圧倒的に世界一なのだ。企業の始めはみな“起業”であり、ベンチャーも多い。しかしいったん軌道に乗ると、その運営管理には他国の経営者に劣らない手腕が発揮され、それを支持する社会風土も伝統的にあるということだ。つまり起業自体は、記事にあるような条件が必要だが、それはむしろ外面的なもので、その企業を維持するためには、もっと内的な要素が必要であることが分かる。
◆「三方よし」の体得を
今年7月、一般社団法人公益資本主義推進協議会主催の教育シンポジウムに出席した下村博文文部科学相が、先のマレーシア訪問でマハティール元首相と会った話を披露した。元首相からは「日本から大学を招致して、日本語で教育してほしい。日本は圧倒的な伝統と文化と歴史を持っているから、日本人の持っているおもてなし、謙虚さ、品格ある文化、所作が日本語で教えることによって、マレーシア人も学ぶことがたくさんある」と要請があったという。その上で下村文科相は「日本文化のパッケージをどんどん海外に出す時代。人類に対する日本の貢献であるということを改めて思った」と。世界が若き経営者たちに望むことも同様のことだろう。
最先端の情報産業に就職して、起業のためのノウハウを学ぶのも大切だが、儲(もう)け一辺倒ではなく、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしは、伝統的にわが国の少なくない企業経営者が指針としている考え方。若いうちにまずそれを身に付けることが、起業の成功率を上げるのに必要ではないか。
(片上晴彦)