広島豪雨土砂災害に不動産価格をめぐる人災が浮き出た「日曜討論」

◆責任問う「時事放談」

 日本各地に大きな被害をもたらした「平成26年8月豪雨」。この気象庁の命名のとおり、西日本では1946年からの統計で過去最多となる降雨量を観測し、中でも20日未明に広島市では3時間で200㍉を超し、大量の土石流が住宅地になだれ込んだ。

 その生々しい爪痕を放映しながら、31日朝の報道番組は防災週間を控えて災害対策を話題にした。TBS「時事放談」は内閣改造などがテーマだったが、地方選に関連して野中広務元自民党幹事長は「広島はあんな危険な場所で、ああいう公営住宅が建設されたことは行政の責任が多いと思う」と述べていた。

 「危険な場所」の認識のとおり、広島市土砂災害発生当時から報道された空からの映像では、安佐南区のJR可部線の西側の被害が激しく、宅地のため山を切り開き過ぎた印象がある。同区の県営住宅棟が半ば土砂に埋もれたのは衝撃的だ。

 広島市は中・四国地方で一番の人口を抱える百万都市。太田川流域に沿って北部山間まで住宅開発が進んでいる。被災地の安佐北区や安佐南区まで広島駅から電車で20~30分と近く、4LDK新築一戸建てが二、三千万円台の値がつく。99年6月にも豪雨で今回の被災地を含む土砂災害が起き広島市・呉市で31人が死亡、01年に土砂災害防止法が施行される契機となった。

 同法にはイエローゾーンと呼ばれる土砂災害警戒区域、レッドゾーンと呼ばれる土砂災害特別警戒区域の規定があり、都道府県が調査しこれを指定する。野中氏の指摘はその遅れをも意味していよう。

◆開発が招く土砂災害

 NHK「日曜討論」は「災害列島ニッポン 命を守るためには」と題し、太田昭宏国土交通相はじめ防災専門の識者が広島土砂災害のケースをもとに議論を進めた。大きな被害について、政策研究大学院大学特任教授の池谷浩氏は「都市開発が拡大していったことが原因のひとつではないかと考えている。山地に拡大していくと急な勾配があるところに住宅地が存在するようになる。また、住宅地と山地の距離が短くなる。ということは大きなエネルギーのまま土石流が流れ下ることを意味している」と語り、分かりやすい理屈である。

 裏を返せば、開発を進めて増えたイエローゾーンやレッドゾーンがあるはずだ。ならば人災ではないのか。番組では今回の被災地の6割が同法による区域指定がなかったと紹介。太田国交相は、指定に住民の合意を得ようとした広島の「丁寧な」やり方があったと述べた。討論では、この問題点についても触れ、京都大学大学院教授の藤井聡氏は「特別警戒区域では宅地開発の制限や移転勧告とか国民の自由な意思決定に対しての制限が入る。これに行政は及び腰なところがある」として、自治体側の躊躇(ちゅうちょ)を指摘した。

 藤井氏は「命を守るためには毅然(きぜん)と制限するべきところは制限するという態度を政府が持つことが必要だ」と強調。また、不動産価格への影響から「地元の方々の合意が得ずらいという問題が非常に大きくある」と指摘した群馬大学大学院教授の片田敏孝氏も、「危ない場所は技術的に特定できる。それを、不動産価格に影響があるということで住民の合意を得られないのは、ある意味、危険に目をつぶる行動だ」と述べ、本末転倒だと訴えていた。

 東京大学大学院准教授の蔵治光一郎氏は住民意識の問題を突いた。同法の区域に大学の土地が入り、その説明会に参加した経験から「出席率は2割程度。説明会をやっても人が来ない。そうだとすると住民にとって知らないうちに指定されていたということになる」と懸念していた。

 後から特別警戒区域に指定され、移転勧告されても迷う人が多いだろう。太田国交相は被災地に建てられた家は「昭和50年代が多い」と一言触れていたが、警戒区域、特別警戒区域の指定は既に住んでいる人々の土地資産を下落させ、利権問題になる。

◆住宅を安全な立地に

 しかし、討論の冒頭で同相は、近年の雨の降り方が激甚化しているとして「50㍉対応から75㍉対応にしないといけない」と、豪雨対策の前提を1時間75㍉の雨量にする必要を説いた。

 「日本の地形、地質を考えると、これだけの雨が降るとどこでも山が崩れたり、土砂災害が起こってもおかしくない」(池谷氏)など識者らの認識は疑いようのない現実である以上、より安全な立地に住宅地を漸次誘導していく都市政策、豪雨対策は百年先を見越してでも推進していかなければならないだろう。

(窪田伸雄)