BS日テレ慰安婦討論で「朝日」に甘くも「挺対協」に怒り心頭の下村氏

◆挺対協の実態を暴露

 いわゆる「従軍慰安婦」の議論はもう出尽くした感があったが、メディアで再び取り上げられている。吉田清治氏(故人)の「慰安婦狩り」証言を何度も取り上げてきた朝日新聞が、その証言は虚偽と認めた上に、「女子勤労挺身(ていしん)隊」と慰安婦を混同したことを認める新たな動きがあったからだ。

 19日放送のBS日テレ「深層NEWS」もその流れの中で「32年後撤回… 朝日報道と慰安婦問題を考える」と題して放送。ゲストの選定が良くかなり突っ込んだ討論となり、見応えのある番組となった。

 そのゲストは、現代史家の秦郁彦氏と、ジャーナリストの下村満子氏。秦氏は慰安婦に関する著書があるこの問題研究の第一人者。元朝日新聞編集委員の下村氏は、元慰安婦への償い事業を行ったアジア女性基金の元理事で多くの元慰安婦に会っている。慰安婦は「ほとんどが身売り」と見る秦氏に対して、下村氏は「そうでない女性もいた」と微妙な違いはあったが、番組の進行とともに2人の討論は熱を帯びていった。

 とりわけ、元慰安婦への償い金受け取りを拒否させた「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺対協)に対する下村氏の憤りはすさまじかった。

 「(本人たちが償い金を)受け取りたいというのを妨害するのは人権問題じゃないですか」「この方たち(挺対協)は慰安婦を盾にとって利用して、慰安婦だったおばあちゃんたちのことなんか、全然考えていないんですよ」

 さらには、日韓関係が最悪と言われる状況になったのは、吉田証言は虚偽だと分かったのに「(挺対協が)フルに利用して、反日運動の道具に使っている」からだと一気にまくし立てた。筆者は、下村氏がテレビ朝日の「朝まで生テレビ!」(5月31日放送)でも挺対協を批判する場面を見ている。これまで韓国のこの団体を批判してこなかったという下村氏がその実態を“暴露”するに至った心境は、こじれた日韓関係を考えれば想像できよう。

◆読売側司会者が反論

 深層NEWSでは、秦氏も「挺対協は今やモンスターなんですよ。これは韓国政府の高官が言っている。『この問題では、挺対協が絶対的な拒否権を持っている』と。だから、いくら韓国政府と交渉して話がまとまってもダメなんです」と、下村氏に同調した。

 挺対協についての2人の認識はほぼ一致し、途中で時間切れとなるぐらい討論は盛り上がったが、その一方で、朝日新聞の誤報の重大性については、下村氏に認識の甘さも。つまり、「吉田さんの証言はずいぶん前から(虚偽だと)言われていた。もちろん、朝日がかなり大きく扱ったとか、あるかもしれないが、他の新聞も当時は書いた」と、古巣擁護のスタンスだった。

 これには、司会の玉井忠幸・読売新聞編集局次長が黙っていなかった。「『他の新聞も』という話がありましたので、補足しておきますと、読売新聞でも慰安婦と挺身隊を混同した報道がありましたけど、少なくともこの15年間は、混同は誤りであると、社説などで繰り返し指摘している。それから、吉田証言についても、これを根拠に慰安婦狩りが行われたという事実があったという報じ方はしていない」「朝日報道がその後の慰安婦問題の論議、あるいは韓国内にも転伝されて影響を与えたというのは事実」と釘を刺した。

◆挺対協に韓国が屈服

 8月4日放送の深層NEWSには、先月25日にソウルで朴槿恵大統領と会談した舛添要一・東京都知事が出演した。同大統領に腰を低くして握手する場面がテレビ報道で流れて、訪韓は韓国側に利用されただけではないかとの批判が出たが、舛添氏は「(朴大統領は)日韓関係を良くしたいと思っているから会ってくださった」「メディアの前ではヘラヘラできないですよ。かなり厳しいことを日本に対して言わなければ朴槿恵さんの政治生命は終わっちゃう。メディアがいなくなったら本当に和気藹々(あいあい)」と釈明。そして、「暑い夏が終わったら、(日韓関係は)変わると思います」と、意味深な発言をした。

 舛添氏の訪韓の手柄話のようにも聞こえるし、何を根拠に楽観的な見通しを示したのか不明だが、挺対協のような民間団体の前には、大統領のリーダーシップさえも埋没してしまう韓国政治の異常状態がある限り、秋になったとしても日韓関係はそう簡単には改善できないだろう。

 それはともかくとして、NHKはBSで放送した番組をあとで総合テレビで再放送することがある。今回の秦氏と下村氏の討論は、地上波でも放送したほうがいい。

(森田清策)