女性の貧困を家庭崩壊や人生態度問わず雇用問題にすり替える朝日
◆筋違いな性役割批判
最近、貧困に関する記事が新聞に散見される。
朝日は「女が生きる 男が生きる」シリーズで「そこにある貧困」(7月26、27日付)、読売は「貧困 子供のSOS」(30日付~)、毎日は「母子家庭の『貧困』今も昔も」(29日付)などだ。朝日は社説で「子どもの貧困 ひとり親世帯を救おう」(30日付)と論じている。
この背景には子供の貧困率の高まりが挙げられるが、「便乗商法」のような不可解な記述が少なくない。朝日の「そこにある貧困」がその典型だ。
26日付は「子育ては家庭でやるもので、主に母親の役割」という「隠れた意識」があるとし、ジェンダーフリーで有名な大沢真里・東大教授に「この仕組みが、女性や母子家庭の貧困を深めている」と語らせ、まるで専業主婦が貧困の要因であるかのように書く。
だが、記事に登場する母親は専業主婦ではなく、いずれも離婚者で、貧困に陥った原因は明らかに家庭崩壊にある。例えば、「月収5万円 子守誰に頼めば」との見出しで、埼玉ベビーシッター事件で死亡した2歳男児の22歳母親を取り上げるが、父親についてはまったく記述がない。
母親ひとりで幼児2人を育てるのは困難とするが、真剣に保育所や仕事先を探した様子がなく、飲食店で週2回働いているだけだ。それでいてママ友とディズニーランドに遊びに行こうとしていた。記事はこうした幼すぎる母親の無責任な態度を問わず、「子育ては家庭、母親の役割」という「隠れた意識」に矛先を向けている。こじつけも甚だしい。
◆家庭軽視論へと誘導
朝日社説は貧困の原因を母親の不安定な非正規雇用にあるとし、「根本的には、雇用の構造から生じている問題だ。非正規雇用を正規にかえていく努力をしなければ、貧困に苦しむ人はなくならない。非正規の待遇改善も必要だ」と説く。これにも首を傾(かし)げる。「根本的」なのは前記母親で見られるように家庭崩壊や人生態度にある。それを朝日は雇用問題にすり替えている。
27日付「50代女性 派遣の日々」で紹介する独身女性は週5回働き、稼ぎは月に13万円ほど、保険料などを支払うと手元に残るのは8万~9万円、貯金もできないとしている。が、30代には派遣された外資系銀行で管理職も任され、月25万~30万円を得ていた。蓄えがないのか、記事は触れない。今も週休2日で、そこそこ生活している。これが果たして貧困だろうか。
ところが、記事は「『女性は結婚』仕向ける社会」と矛先を結婚に向ける。「結婚を前提に『稼ぎ手』である男性の給与は高く、女性は家計の補助という位置づけに置かれる傾向が強かった」とし、配偶者控除や第3号被保険者(専業主婦)をヤリ玉に挙げる。
これも筋違いな話だ。そもそも社会が結婚を前提にした仕組みを作るのは古今東西、当たり前で、そうでなければ人類は永続しない。この女性は外資系で管理職も経験しており、何も家計の補助といった賃金ではなかった。50代で派遣が難しいのは年齢の問題だ。それを朝日は強引に家族軽視論へと誘導する。
◆目立つ不適当な事例
同日付でもっと驚かされるのは、「非常勤職員 困窮しバイトも」という29歳の独身女性の話だ。非常勤の市職員で、週5日働き手取りは17万円、家賃5万円の1DKのアパートで暮らす。「学生時代の奨学金の返済、友人の結婚式のお祝いを出すにはお金が足りず、夜の居酒屋でアルバイト」で月3万~4万円手取りを増やし、それでも「貧困って私のことですよね」と自嘲気味に話している。1人暮らしで手取り20万以上でも朝日にかかれば貧困にされてしまう。世間からほど遠い感覚である。
また「離婚 仕事見つからない」と、大学教授の夫と2年前に離婚した50歳女性を取り上げる。離婚直後はデイホームのパートが見つかり、時給850円で手取りは月4万円だったが、1年で退職を余儀なくされたという。この時給で4万なら月50時間、6日程度しか働いていない。退職を余儀なくされた理由は書かれていないが、勤労意欲の問題がうかがえる。それでも非正規雇用が原因と書く。
こんな具合に朝日には不可解な記述が満載だ。とてもまともに読むシロモノではない。
(増 記代司)