2020年東京五輪後の日本経済失速要因の人口減少を考える各誌
◆求人難倒産など予測
「超氷河期」「買い手市場」といわれた最近までの労働市況が嘘(うそ)のように、現在の日本は労働需給が逼迫(ひっぱく)しているという。特に建設業界では人材不足が深刻で、企業は人手確保に躍起になっている。しかも、今回の労働者不足は景気循環で起こるものではなく、構造的な問題に起因しており、外国人労働者の活用拡大論議なども含めて日本経済にとっては深刻で、なおかつ緊急を要する課題として捉えられている。
折しも2020年には東京オリンピックの開催が決定しており、その整備のための人材補給は不可欠。人口減少と経済発展という矛盾した問題に取り組まなければならないのがこれからの日本経済の課題となっている。
そんな中で経済2誌が人口問題について論議している。一つは週刊東洋経済7月12日号。もう一つが週刊ダイヤモンド7月19日号である。ただ東洋経済の場合は、今年後半の経済を予測した特集「2014年後半経済大予測」の中で「人手不足」を一つの記事として取り上げたのに対し、ダイヤモンドは「2020年からのニッポン」と題する特集を組んだ。サブタイトルは「人口減少ショック!」となっている。
2誌とも人口減少によって企業が戦略転換を迫られていると説く。とりわけ、東洋経済は「求人難による倒産」「人件費上昇による倒産」の件数増を挙げて、「もはやデフレ下で築いたビジネスモデルは通用しない」と警告する。
もっとも、少子高齢化社会の到来はかなり以前から言われてきたこと。「地方の過疎化」や「働き手の不足」という言葉は国民の頭の中にインプットされてきた。これまで長きにわたるデフレ経済の中で、それらの言葉も「いずれそうなるかもしれない」程度の認識だったが、ここにきて現実味を帯びてきたというのが実際のところ。「地方は過疎化どころではなく、自治体含め地方は消滅する可能性が大きい」「人材不足は建設業だけではない。すべての業種に起こること」と言えるほど深刻な問題になってきたのだ。
◆ダイヤは金融に警鐘
ダイヤモンドの同号では、特集を①マクロ的な視点化から②各産業の動向③公的サービスの低下、さらに④自治体の動向――というように四つのパートに分けて分析する。とりわけ、産業動向では18の業種を対象に、人口減少で浮かぶ業種、沈む業種を調査している。
そもそも、人口減少は経済の縮小を意味することは周知の事実。経済成長を長期にみる潜在成長率の要素の一つに労働人口の増減が組み込まれていることから分かるように労働人口が減少すれば当然、潜在成長率は減少する。労働人口だけでなく人口そのものが減少すればほとんどの業種がその影響を受けることは必至だ。
そうした中で、ダイヤモンドが挙げているのが金融業界。なかでも地方銀行(地銀)については、「2割強の銀行において収益率がマイナスとなる。各県に少なくとも二つある地銀は一つに減り、厳しい県では全てなくなってしまう」と指摘。また、建設業を例に挙げて次のように指摘する。「(2020年の)東京五輪を控え、かつてないほど好調な新築マンションだが、それの後厳しいのは確実。早く次の飯の種を育てる必要がある」と、ある建設会社社長の言葉を引用している。
一方、人材不足に対する対応策として現在、議論の対象になるのが外国人労働者の活用。政府は今年4月に外国人労働者の受け入れを建設業、介護、農業、家事支援を対象に拡大する方針を決定した。例えば建設業ではこれまで「技能実習期間」を3年としていたものが2年延長追加することを可能とし、さらに帰国しても再度3年間の就労を認めるというもの。
◆社会問題となる移民
もっとも、こうした限定的な措置で果たして日本の人材不足問題が根本から解決されるとは誰も思っていない。ひと頃、政府が20万人の移民を受け入れる計画をもっていると報道されたことがある(政府は否定している)が、これとて簡単な話ではない。ドイツやフランスがかつて移民を受け入れ、その後、国内で大きな社会問題になっていることは周知の事実。ただ、これからの人口不足を考えた場合、移民政策を含めて十分な論議が求められている。
(湯朝 肇)