九電川内原発「新基準」合格だした規制委に大社説で批判の朝、毎、東

◆反原発3紙強く反応

 原子力規制委員会が16日に、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)について、「新規制基準を満たす」とする審査書案を公表した。事実上の合格発表である。

 規制委には現在、12原発19基が適合性審査を申請中で、川内原発が優先的に審査が行われてきた。九電は昨年7月の新規制基準施行当日に審査を申請、今回の公表まで丸1年かかった。再稼働は立地自治体の理解を得る必要などから、早くて10月という。

 さて、各紙の論評である。今回は翌17日付に各紙そろって社説を掲載した。原発再稼働を支持する読売、産経、日経、本紙の4紙(結果的に保守系紙)は通常枠なのに対し、反原発3紙の朝日、毎日、東京は通常2本立てのところを1本にまとめた大社説で掲載。批判や怒りの強さを露(あら)わに示すものとなった。

 朝日「原発再稼働を問う/無謀な回帰に反対する」、毎日「川内原発再稼働へ/教訓学ばぬ見切り発車」、東京「川内原発・審査『適合』/ゼロの目標はどこへ」――。

 3紙の見出しである。朝日が言う「無謀」とは、「重要課題が手つかず」(小見出し)なのに、というわけで、その重要課題として真っ先に挙げたのは、「何より、事故の際の避難で、現実的な計画が描けていない」である。

 同様の指摘は、再稼働を支持する日経にもある。福島の事故後、原発30㌔圏内の自治体は防災計画が義務づけられ、川内では周辺9市町すべてが計画をつくったが、「高齢者や子どもらが安全、迅速に避難できるのかなど、課題が多い」(日経)というわけである。全国16カ所の原発周辺の135市町村をみても、避難計画がまだない自治体が4割弱にものぼる、という。

 尤(もっと)も、日経のこの批判は規制委の判断に対してではなく、国に対してのもの。朝日の批判はお門違いである。

◆停電リスクを考えず

 日経は「政府も再稼働がなぜ必要か、国民に説明を尽くすべきだ」と強調、防災の専門知識をもつ職員がほとんどいない自治体に対し、「国の中央防災会議が専門家を派遣するなど、政府がもっと支援すべきだ」と訴える。批判だけの朝日に対し建設的である。

 反原発3紙に共通するのは、「ゼロリスク」への固執であり、その際語られるのが「幸いなことに、原発がすべて止まっても大停電など混乱は起きていない」(朝日)である。

 しかし、朝日が「幸いなことに」と一言で片付ける背後には、老朽化した設備までフル稼働して電気を作り出している火力発電の厳しい現状がある。冷房など需要が高まる夏の電力事情はそれこそ綱渡りである。いつトラブルが起きて大停電などの混乱が生じてもおかしくないリスクを抱えている現実を、故意か否かは不明だが、考慮しない。

 また朝日などは「原発を含むエネルギー政策は経済の観点だけでは語れない」という。

 多分に、再稼働支持派が「貿易赤字を増やす」ことを理由の一つに挙げるからだが、確かにその通りである。関西電力大飯原発の運転差し止めを命じ、独善性が際立った福井地裁判決の言葉を引いた後で、朝日が挙げるのは「人間と自然の安全」である。

 だが、それだけではないはずである。エネルギー安全保障もあれば、二酸化炭素(CO2)排出を原因とする地球温暖化といった環境問題などもある。科学技術の進展も大いに関係してこよう。再稼働支持は「貿易赤字を増やし、国富流出につながる」からだけが理由ではない。

◆住民に丁寧な説明を

 一方の保守系紙。今回の規制委の判断に評価はするものの、批判や注文がないわけではない。「規制委が電力会社に次々にデータの追加提出を要求するなど、非効率な審査をしてきた」(読売など)からである。産経が「大規模停電が心配されるこの夏に再稼働が間に合わないのは重大な問題だ」と指摘するのも道理である。「川内原発の審査の経験を、他原発の審査の円滑化に生かすことが大事」(読売など)ということである。

 また、再稼働には地元の自治体や住民の理解が欠かせない。国もそうだが、専門家として「まず規制委の説明責任は重い」(日経)。日経が指摘するように、委員は鹿児島県や地元市町が予定する住民向けの説明会に出向き、審査経過を丁寧に説明する必要があるだろう。

(床井明男)