ODA大綱改正に向け「軍事的用途の回避」見直しに賛意示した産経

◆評価した読・産など

 発展途上国の経済発展などを支援する政府開発援助(ODA)は、第2次世界大戦後の世界の復興の中で1960年に国際開発協会(IDA、通称・第二世界銀行)、1961年に開発援助委員会(DAC)が設立され、その支援体制を整えてきた。DAC諸国のODA実施では純額ベースで米国が長年、世界最大の援助国だったが、1989年に日本が首位となり翌90年を除き、2000年(約135億㌦の拠出)までの10年間にわたり最大の援助国だった。2001年には米国が再び首位となり、経済停滞などでODA予算を削減し続けてきた日本は09年現在で米国、フランス、ドイツ、英国に次いで第5位(約95億㌦)と後退している。

 日本から初めてODAを拠出したのは二国間援助で、1954年にビルマ(現、ミャンマー)と結んだ「日本ビルマ平和条約及び賠償・経済協力協定」による賠償供与であった。今年はそれから60年を迎える節目の年である。二国間援助によるODAはその後、フィリピン、インドネシアと続いた。ODAでは日本は二国間援助とともに、国際連合世界食糧計画(WFP)などの国連機関やアジア開発銀行(ADB)などの国際機関に資金を拠出する多国間援助を行ってきたのである。

 日本のODAは、その基本理念や重点事項などを集大成したODA大綱を基に行われてきた。1992年に閣議決定され、2003年8月に改定された今の大綱は、国連憲章の諸原則(主権、平等、内政不干渉など)を踏まえ①環境と開発の両立②軍事的用途などへの使用回避③軍事支出、大量破壊兵器開発・製造などの動向に注意④民主化、基本的人権などの保障状況への注意など――の4原則を援助の選定基準にしてきた。

 このODA大綱の見直しについて、外務省の有識者懇談会が報告書を提出した。政府は年末までに、新大綱を閣議決定する予定である。

 報告書が大綱の改正を勧めているポイントは、これまで非軍事面の支援まで妨げてきた②「軍事的用途の回避」原則の緩和である。大型台風や大地震などの大災害救助・救援に当たる軍隊への機材やノウハウなどの支援は、たとえ非軍事的目的であっても認めてこなかった。また経済発展や災害救助に欠かせない港湾や空港の建設や整備の支援も、軍民共用が少しでもあると、手を出さなかった。これを「一律に排除すべきではない」ケースとして認めるよう提言したのである。

 ODA大綱の見直しの報告書について、その意義を積極的に評価したのは読売(6月27日社説)、産経(同29日主張)と小紙(7月1日社説)である。読売は報告書がODAの基本方針の一つに「非軍事的手段による平和の希求」を掲げたことを「多くの国が軍隊を平和構築や民生目的に活用している。日本が重要な外交カードであるODAをこうした分野に使うのは、『積極的平和主義』の理念とも合致する」と踏み込んだ評価をした。

◆対中ODAの追及を

 産経は「『軍が関係しているがゆえに一律に排除すべきではなく、実質的意義に着目』するようにという報告書の指摘はもっともだ」と賛意を示した。また小紙も触れたが、海洋進出を強める中国の圧力に直面するベトナムに巡視船をODA供与した際に、使用する海上警察を国防省から独立させた例をあげ「受け入れ国に負担を強いるODAでは意義も薄れよう。『軍事的用途の回避』に縛られすぎては変化に即応した援助は適(かな)わない。/ODA外交の今日的目標はこれらの国々を支え、法の支配などの価値観を普及させることに置かれるべきではないか」と現大綱の欠陥と今後について指摘したのは同感である。

 ひとつ残念なのは、中国への莫大なODAが依然として行われていることと大綱の原則とどう整合するのかの問題に報告書が触れていなかったこと、新聞もその追及がなかったことである。

◆朝日の論理は無理筋

 なお、朝日(29日社説)は見直し報告書に真っ向から反対を唱えた。だが「日本がいかに非軍事という線引きをしても、その線がいつまでも維持される保証はない。それに、他国からみれば、軍への支援は『軍事支援』にほかならない」と非軍事目的の支援も、軍事目的に押しくるめて展開する論理はちょっと無理筋。「他国から」を盾にして言っても、その他国とは日本が嫌いで嫌いで仕方ない一、二の国のことでしかないからである。

(堀本和博)