武器輸出三原則見直し決定で軍事ビジネスを特集したダイヤモンド

◆ビジネスとして注目

 自衛隊は今年創立60周年を迎えた。自然災害への救助活動や海外でのPKO(国連平和維持活動)など国内外でその活動に高い評価を受ける。かつて国民から“胡散(うさん)臭い”組織として見られ、「肩身の狭い」思いをしていた自衛隊だが、時の流れとともに存在感を示してきた。

 一方、安倍政権は「強い日本」を構築すべく、着々と防衛体制を整備する。今年4月には我が国の武器輸出三原則を見直し7月1日には憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を認めることを閣議決定した。日本は戦後70年にしてようやく独立国家として“普通の国”になろうとしているようだ。

 そうした中で週刊ダイヤモンド6月21日号は、自衛隊と軍事ビジネスをテーマに特集を組んだ。「自衛隊と軍事ビジネスの秘密」とのタイトルと、サブタイトル「知られざる22万人の巨大組織と2兆円産業を全解明」と躍る活字に誘われて目を通した。

 特集の構成は、第1部で武器輸出解禁による我が国の軍事ビジネスの現状と課題を詳細に分析し、第2部で自衛隊の組織構造や自衛隊員の出世レースなどを紹介している。とりわけ軍事ビジネスについては、これまで経済誌に取り上げられることは殆どなかっただけに、ある意味で新鮮な印象を受けた。

 ところで、これまで我が国は武器輸出に関して、共産主義国や紛争国に対してはもちろん、他のどの国に対しても慎重に対応する方針を貫いてきた。すなわち、武器輸出三原則と呼ばれるものだが、それに対して安倍政権は「最先端の兵器は国際開発が主流であり、日本はその流れから取り残されている」として武器輸出三原則を見直し、新たに防衛装備移転三原則を閣議決定したのである。

◆日本の技術力に関心

 もちろん、武器輸出三原則が遂行されている中でも、我が国では米国企業とのライセンス契約として幾つかの企業は武器製造に関わってきた。今回、武器輸出が事実上解禁になったことで米国をはじめ多くの国が高い関心を集めており、そうした内容が特集の中で紹介されている。

 というのも、日本の高い技術力に着目して各国は日本との連携を模索しているのだ。記事の中で、自衛隊関係者が「中国以外は日本の武器輸出はウエルカムでニーズは間違いなくある。問題は日本企業がそれに応えられるか」と語ったくだりがあったが、各国の期待はかなり大きいものがあると推測できる。

 もっとも、特集には記載されていないが、事実上の武器輸出解禁に対して国内には反対意見も多い。その多くは日本国憲法9条の非戦論の下に、「武器輸出三原則は非核三原則と合わせて我が国の平和主義を象徴するものであって、武器輸出三原則を見直すのは平和主義から逸脱する」といった主張である。あるいは、「防衛産業といっても我が国には国際競争力がないため世界に通用しないし、国際的な共同開発といっても先端技術はブラックボックス化されていて我が国に技術は移転されない。なのに、なぜ武器輸出を解禁するのか」といった批判である。

 が、同特集によれば「武器輸出三原則の緩和は、硬直化した日本の防衛産業の構造を変える転機」となるという。国際共同開発参加についても、「海外の軍需企業にのみ込まれないように焦らず上手に経験を積んでいく他はない」と説くところ、親方日の丸体質からの脱皮を期待したと言えよう。

◆部下の命預かる人格

 一方、第2部の「自衛隊の秘密」では、陸海空22万人を擁する巨大組織の中で、どのような出世レースが繰り広げられ、また天下り先としてどのような企業があるのか、などを詳しく紹介しているが、意外に本音の部分が見えて興味深い。とりわけ、幹部自衛官にはかなりの資質が求められるのが分かる。「有事の際、部下から『この人なら命を預けられる』と慕われるだけの人格を併せ持っていなければ、指揮など到底できないからだ。単なる学校秀才では通用しない世界」とは、経営界にも通じそうなリーダー論だ。が、有事となれば実弾で「命のやり取り」を強いられる自衛隊の世界の出世レースもまた過酷というのもうなずける。

 中国の露骨なまでの周辺諸国領海内への侵入や北朝鮮の日本海へのミサイル発射などで平和が脅かされる昨今、自衛隊の存在価値は日増しに大きくなっている。それだけに時宜を得た経済誌ならではの切り口であり、読み応えがあった。

(湯朝 肇)