W杯日本人サポのゴミ拾いで集団的自衛権の批判をする「サンモニ」
◆称賛集めたゴミ拾い
サッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会も一次リーグを終えてベスト16が出そろった。残念ながら日本は1分け2敗に終わり、2大会連続のベスト16進出はならなかった。
その中で、今大会の日本は選手たちだけでなく、サポーターたちの行動も注目を集めた。
敗戦したにもかかわらず、日本人サポーターが試合後にスタジアムに残ってゴミ拾いをしていたことが外国の目には新鮮に映り、各国の新聞が日本のマナーの良さやモラルの高さを称賛したのだ。
このニュースは、日本のテレビや新聞などでも多く取り上げられた。
しかし、このサポーターのゴミ拾いを紹介した番組の中で、他のニュースとはまったく違った取り上げ方をした番組コーナーがあった。22日に放送されたTBS「サンデーモーニング」(サンモニ)の「風をよむ」だ。
◆途中から違う批評に
「風をよむ」はニュースを報じるのではなく、世相を独自の視点で読み解き、それについて各コメンテーターが意見を述べることをウリにしている同番組の看板コーナーだ。
同日のテーマは「サポーターの善意」。冒頭でサポーターのゴミ拾いについて、「ブラジル・ダイアリー」紙が「日本はコートジボワールに負けたが、サポーターは勝利してスタジアムをあとにした」と報じたことや、英国の「メトロ」紙が「日本のサポーターは善意の心では負けなかった。このような光景を目にするのはまれなこと」などと称(たた)えたことを紹介。
さらにナレーターが「日本人のマナーや行動への称賛。実はこうした声は、今から3年前にも聞かれた」と述べ、東日本大震災で略奪行為などがなく、秩序ある行動を見せたことに「世界は驚きをもって受け止めた」とした。
ところが、途中からゴミ拾いはそっちのけで、なぜか集団的自衛権の憲法解釈変更や防衛装備移転三原則についての批評に変わっていた。
司会の関口宏氏は「(集団的自衛権の解釈変更などで)国の形が変わってしまったら、こうした良さもなくなってしまう不安がある」とコメント。集団的自衛権行使を容認したら、サポーターはゴミを拾わなくなり、災害時には暴動が発生するとでも言うのだろうか。サポーターの行動や日本人のマナーの良さと集団的自衛権とは何の関係もないはずだ。まったく接点のない二つを無理やりこじつけていると言わざるを得ない。
ちなみにゴミ拾いについては、韓国人サポーターも初戦のロシア戦後に行っている。日本のサポーターを見習ってゴミ拾いをしたと思われるが、日本人のマナーがいい影響を与えた好例だ。
素晴らしいと思った行動を見習い、自らも実践した韓国人サポーターの行動も十分、称賛に値する行為だろう。
その韓国は、休戦状態とはいえ、今も北朝鮮と軍事的に対峙(たいじ)しており、徴兵制をとっている。もちろん集団的自衛権の行使も武器の輸出も認めている国だ。
集団的自衛権行使を容認したらゴミ拾いをするような良さが失われるという論理は、韓国人サポーターの行為を見ても破綻している。
◆根拠示されない論理
そもそも番組内では、集団的自衛権の解釈変更で「日本人のマナーの良さがなくなる」という根拠が何も示されていなかった。
集団的自衛権の行使容認に反対なら単純にそう主張すればいいだけなのに、とにかくなんでも政府批判に結び付けようとするから、こうした理解不能な論理に陥ってしまうのだろう。
聖学院大学学長でコメンテーターの姜尚中氏に至っては、サッカーのサの字もゴミ拾いのゴの字もなく、「70年前に起きた出来事を次の世代に伝えていくという作業について、うまくいっていなかったのかもしれない。それはどうしてなのかということを考えさせられる」とコメント。こじつけどころか、サポーターのゴミ拾いと戦争体験の言い伝えが、どこでどう繋(つな)がるのかさっぱり分からない。もしかしたら本人の中で繋がっているのかもしれないが、視聴者に意味が分からないようでは、コメンテーター失格と言える。
ブラジルの地で日本代表の勝利を願って必死に声援を送っていたサポーターたちも、まさか自分たちの「善意」がサンモニで政府批判の材料として使われるとは思っていなかったことだろう。
(岩城喜之)