エネルギー自給率が第1次石油危機より低い6%と警鐘鳴らす産経
◆他紙に論評なく残念
2011年の東日本大震災以来、初めての原発「ゼロ」の夏を迎えた。原子力規制委員会による安全審査が現在十数基実施されているが、再稼働のめどは立っていない。
昨今のエネルギー事情をまとめた今年のエネルギー白書が先週発表され、弊紙18日付経済面でも「原発停止で火力比率9割/貿易赤字、料金上昇の要因」と取り上げたが、社説として論評したのは19日付産経の一紙のみ。その内容は危機感にあふれ、「日本のエネルギーを取り巻く環境は、極めて脆弱(ぜいじゃく)な状態だ」と現状に強く警鐘を鳴らすものになっている。
前述の通り、わが国はすべての原発が停止中であり、原発が担ってきた分は火力発電所が引き受けている。このため、原油や液化天然ガス(LNG)など火力発電向けの燃料輸入が急増し、貿易赤字拡大の主要因になっている。
白書によると、直近のエネルギー自給率は6%にまで低下した。「日本中がパニックに陥った第1次石油危機時の9%を下回る水準である」と同紙が危機感を募らせるのも道理である。
エネルギー自給率とは、エネルギー源をどれだけ自国で調達できたかを示す指標である。わが国は2度の石油危機を教訓に、エネルギー自給率の向上に取り組み、1973年(第1次石油危機時)の9・2%から、震災前年の2010年には19・9%まで改善したが、原発停止の結果、11年は11・2%、12年には6・0%と急速に低下している。
産経が「急激な低下はエネルギー安全保障の根底を揺さぶるものだ」と強調するが、誇張でも何でもない。由々しき事態と重く受け止めるべきものである。他紙、特に本紙を含め保守系紙にこうした論評がないのは残念である。
ちなみに、12年の自給率6・0%の内訳は水力1・5%、天然ガス0・7%、原子力0・6%、原油0・1%、再生可能エネルギー等3・1%である。クリーンエネルギーとして期待がかかる太陽光などの再生可能エネルギーが半分を占めた。
原子力が激減した分だけ浮上した形だが、実態は10年2・7%、11年3・1%と横ばい状態である。ただ、その後の固定価格買い取り制度などの取り組みもあり、どこまで拡大できるか。
◆読売は自由化に注文
今回の産経の論評では指摘がなかったが、白書は燃料の輸入が増えたことで海外に流出する国富は年3兆6000億円に達すると試算。電気料金も福島原発事故前から家庭用で2割、産業用で3割上昇し、「海外への生産移転を招き、対日投資拡大の障害になる」と強調した。
安倍政権は24日に改定成長戦略と経済財政運営の基本指針「骨太の方針」を決定したが、安価な電力の安定供給は成長戦略の根底にあるものであり、安定供給に向けた取り組みこそ、成長戦略の柱の一つになるべきものであろう。
電力に関係する事象では、改正電気事業法がこのほど成立し、家庭向けなどの電力販売が16年をめどに自由化されることになった。これについては、読売だけが論評を載せた。18日付社説「利用者本位で競争の促進図れ」である。
同紙は、電力市場の競争を促進させ、料金の引き下げやサービスの向上につなげようという自由化の狙いは妥当だろうとし、「肝心なのは、狙い通りに競争が起きるようにすることだ」と強調する。
海外で自由化によって逆に電気料金が上がった例があるためで、自由化は良い面ばかりではないということである。
また、その前提として、「安全性を確認できた原発の再稼働を着実に進め、新規参入組が十分な電力を確保できる環境を整備する必要がある」と指摘したが、同感である。
◆送電分離で大停電も
政府はさらに18年~20年をめどに電力会社の発電と送配電部門の分離を目指している。送配電の中立性を高め、新規参入を促す狙いだが、こちらも、同紙の指摘通り、米国で発送電分離による発電業者と送電業者の連携不足から大停電を引き起こした例もある。
競争の激化から余分な設備を持つ余裕が乏しくなり、いざという時のバックアップに事欠くという事態も予想される。自由化は「電力安定供給の確保を最優先にした、地に足のついた改革を目指さねばならない」(同紙)ということである。
(床井明男)