米軍が邦人救出断るとの虚報で読者をだます朝日の首相批判の手段

◆「現実性ない」と朝日

 最近の朝日の紙面を見て、文芸評論家の百目鬼恭三郎氏の次の言を思い出した。

 「新聞は、イデオロギーあるいはセンセーショナリズムによって作られているのであり、真実を追求しているようにみせかけているのは、読者をだます手段だと思えばまちがいなかろう」(『新聞を疑え』講談社)

 厳しい新聞批判である。百目鬼氏は朝日の編集委員を務めた人で、退社後に朝日の事大主義的体質を批判したことで知られる。むろん氏が言う新聞は朝日にほかならない。

 読者をだます、その典型例はさしずめ朝日16日付の1面トップ記事ではなかろうか。「『米艦で邦人救出』米拒む 過去の交渉」との見出しで、1998年に日米ガイドラインに基づく協力内容を定める周辺事態法をつくる際、米側の意向で米艦での邦人救出が協力分野から外されていたと報じたのだ。

 朝日によれば、米軍が海外の自国民らを救出・保護する作戦では国籍による4段階の優先順位があるとし、日本は最後に位置付けられており、過去の日米交渉で米側は日本人救出を断っていたという。

 そのうえで、安倍晋三首相が集団的自衛権行使をめぐる論議で「避難する日本人を乗せた米艦を自衛隊が守る」との想定を描くが、「現実には『日本人の米艦乗船』は極めて困難だ」と断じ、現実性のない論議だとして「想定に穴」と嘲笑っている。

◆「事実無根」と防衛省

 が、眉唾モノと言うほかあるまい。米艦による救出と言えば、1975年のサイゴン陥落での救出劇が記憶に残る。詰め掛けた人々の国籍を問う余裕などなく、次々にヘリに乗せ艦船に移送したのが印象的だった。朝鮮有事では同盟国の日本を最後にする? そのほうがよほど非現実的である。

 案の定、防衛省は「朝日報道は事実無根」と真っ向から否定した。産経19日付によると、現行のガイドラインは周辺事態における「非戦闘員の退避」に関し「日米両国はおのおのの能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送にかかるものを含め、非戦闘員の退避を実施する」としており、これを受けて在外邦人の輸送訓練を毎年のように行っている。

 また米国が邦人を輸送したケースとして、98年にエチオピアと紛争していたエリトリアにいた3人を軍用機で、2011年には治安が悪化したリビアから4人をチャーター船で輸送しており、防衛省幹部は「米国は拒否していない」と明言している。

 安倍首相は5月の記者会見で、乳飲み子を抱いた母親が米艦で避難するイラストを掲げて集団的自衛権行使の必要性を訴えた。これを朝日や野党は「現実的でない」と批判してきたが、その批判を補強するための朝日の「虚報」とすれば、読者をだますための手段ということになる。

◆朝日を戒めた布施氏

 毎日も行使に否定的だが、邦人救出については布施広・論説委員が「非現実的と言うなかれ」(3日付「視点」)と戒め、安全保障や邦人保護をめぐる論議は「何が起きても不思議ではない」ことを前提とすべきだと主張している。

 布施氏は91年の湾岸戦争時、前線のサウジアラビアにいて、エジプトに残した妻と幼い息子は他の日本人ともども同国からの避難を検討した。湾岸からのミサイル飛来や暴動などの恐れがあったからだが、幸い避難しないで済んだ。それで「もっと危険な状況にもなり得た以上、例のイラストがそう非現実的だとは思わない」と述べている。

 国際社会の現実を身をもって体験したわけで、そこが井の中の蛙よろしく国内論理にしがみつく平和ボケ主義者と違うところなのだろう。

 「大切なのは、どんな非常時にも遅疑逡巡しない態勢や法体系を整えることだ。個別的自衛権で十分ならそれでいい。国会論戦で野党側は、集団的自衛権がなくても大丈夫だと国民が納得できるような、骨太で精緻な論理を展開してほしい。非現実的という言葉はいらない」

 お説ごもっともである。が、なぜか毎日は容認論に否定的で、この当たり前の話が通じにくい。非常時に遅疑逡巡しない法体系に憲法も加えれば、毎日もセンセーショナリズムのそしりを受けなくて済む。

(増 記代司)