建設的で具体的再発防止策を追求すべきアエラ「捏造はなくならない」
◆提言書踏まえ諌める
STAP(スタップ)細胞の論文問題を受け、理化学研究所(理研)が設置した外部有識者でつくる改革委員会は先日、小保方晴子研究ユニットリーダーが所属する発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)の早急な解体と再構築を盛り込んだ提言書を野依良治理事長に提出した。提言では関係者に厳しい処分を求めている。
それを踏まえた形でアエラ6月23日号の記事「STAP論文は世界三大研究不正か 捏造はなくならない」は、リードで「監視強化だけでなく、研究者の意識改革が重要だ」と説いている。
また「ここまで大きな問題はめったにないが、研究不正はどこでも起こりうる。罰則や規制強化の流れができそうだ」として、研究の場の捏造(ねつぞう)問題に詳しいという産業技術総合研究所・創薬分子プロファイリング研究センターの夏目徹センター長に聞いている。
夏目氏によると「捏造は、大きく4パターンに分けられる」。一つは、出来心でついデータをいじってしまう「ボトムアップ出来心型」。次は、確認の実験を命じられるが、材料が切れて実験できない時などに、どうせバレないだろうとデータを作ってしまう「ボトムアップ確信犯型」。そしてボスの思い込みが激しく、こういうデータが出るはずだと言われ、泣く泣く捏造に近いことを行う「トップダウン恫喝(どうかつ)型」。四つ目はコスト節減のため実験のスキップや捏造を行う「トップダウン洗脳型」。組織内で発生するまがったことや不正は上司と部下の間の葛藤や意識のずれを契機に起きるというわけだ。
◆人材雇用で注意要る
この分類の話を受け、記事は「責任著者が責任をとらず、下の人を切り捨てればよいとなると、捏造の温床になりかねない。バイオ実験は言葉にしづらい暗黙知が多く、結果が再現できなくても、実験が下手と言っておしまいにする傾向も捏造の温床だ」と諌(いさ)めている。
なるほどと思うが、あくまで捏造などを含め社会で頻発するトラブルの分析で、一般論だ。今回のSTAP細胞に関する一連の捏造が、どの型に属し、捏造過程はどうだという分析はなされていない。見出しで「世界三大研究不正か」と息巻く割に、なんだか問題を矮小(わいしょう)化している感じも否めない。
例えば、今回の研究が4チームの共同で行われたため、問題の論文作成の最終責任の所在が至極あいまいになった。そのため論文の確認作業がおざなりになり、最終的に捏造を防げなかった。構成員全体の相互無責任体質が原因と言えるが、これなど先の四つの分類では見極め難い。
そして何より小保方氏の研究者としての資質こそ問題だ。理研は欧米の一流の研究機関と肩を並べるため、今世紀前後から実績のある人材を広く国内外から集めている。主に公募によるが、小保方氏もその流れで理研に雇用された。ハーバード大学の人気教授に師事した小保方氏の肩書や経歴を重視した選考過程に問題はなかったか。
今日、科学研究は専門化、細分化が著しく、特に日進月歩の生命科学分野では、人材を選び出すのに、じっくり人物を見極めることができにくい。理研は伝統を持つわが国屈指の研究施設だが、自由な研究風土を持ち、物理学のノーベル賞受賞者にも関係者が多い。その一種、鷹揚(おうよう)さが災いしたのではないか。規模が拡大した組織経営、人材選択さらに問題が起きたときの事後処理で不都合を来し、今後に不安を残した。
こう見ると今回の捏造は、もっと大きな視点に立って再発防止を考察しなければならない。つまり組織の「危機管理」の視点だ。近年、わが国は防衛力を中心とした危機管理に本腰を入れ始めているし、企業も組織防衛が進んでいる。それに比し研究機関には危機管理の視点が非常に乏しい。
◆高度な経営判断必要
危機管理の要諦は頻度の高くない有事に対して、対策を講じることだが「対費用効果」をまったく無視してよいことにはなるまい。公的支援が含まれる研究費用と管理費用をどう振り分けるか。今後の理研は非常に高度な“経営判断”が要求される。
アエラの記事のタイトルは、「捏造はなくならない」(目次では「永遠になくならない日本の研究改竄(かいざん)」)といかにもエモーショナルだが、建設的で具体的な再発防止策を追求すべきだ。
(片上晴彦)