1億人維持を討論した「新報道」の移民3000万を国力とする疑問

◆始まった労働力不足

 15日朝の報道番組はサッカーのワールドカップ・ブラジル大会で日本が初戦に臨む話題に多くを割いたが、「(仏独など)移民を受け入れるとサッカーが強い」との繋ぎで「移民」に焦点を当てたフジテレビ「新報道2001」の討論は、日本の将来を考えさせるものだった。

 日本の人口は2060年に8674万人に減少すると試算され、政府は経済財政諮問会議で50年後も1億人程度を維持することを骨太の方針素案に明記した。そのために毎年20万人の移民を45年間受け入れる内閣府の試算などが討論のたたき台だ。

 番組では外食店、建築現場の人手不足を扱う一方、外国人技能実習制度で中国人を受け入れた水産会社の経営者が給与・社会保険で日本人に近い人件費が掛かると述べる今どきの外国人採用事情、外国人労働者受け入れが進んでいる韓国の外国人特区が凶悪犯罪多発地帯になっている問題、日本でもブラジル人が住民の6割を占める豊田市・保見(ほみ)団地でのトラブルと改善への対処、スイスが国民投票で移民規制を決めた事例など紹介していた。

 討論出席者は、人口問題に警鐘を鳴らすが移民に慎重な日本創成会議座長・増田寛也氏(元総務相)、1億人維持は日本人の出生率では無理と移民に賛成する法政大学准教授・小黒一正氏、中国人移民の実態から移民に反対のノンフィクション作家・河添恵子氏、安倍政権は移民受け入れはしないと断言する自民党財務金融部会長・菅原一秀衆院議員、建設業の人手不足はデフレ賃下げが原因として先に賃上げによる人集めを求めた内閣官房参与・京都大学大学院教授の藤井聡氏、外国人労働者受け入れに積極的な発言をしたフジテレビ解説副委員長・平井文夫氏らだった。

◆出生率上昇を度外視

 労働者が不足するが、今や外国人は安い労働力ではなく、「日本人と同じに遇する覚悟がいる」(増田氏)という。「政策動員して、まず国内で」(菅原氏)働きたいけど働けない女性、非正規社員、フリーターなどを登用する、との順序には道理がある。

 が、小黒氏は高齢化による介護人材不足が深刻であると数字を示し、人口維持についても「(現在1・43の)出生率が2になっても2060年に向け3000万人減っていく」「生涯未婚率が増えていて今30%」であるため出生率を上げて1億人を保つのは不可能と訴えていた。30%の人を結婚させるのは「現実的でない」というのだ。

 となると移民かとなるわけだが、河添氏はカナダ、オーストラリア、米国の例から「どんどん来るのは中国の方。その後いろんな理由で定住してしまい、民族構成が変わる」と述べた。さらに、カナダの例から提出する「書類はほとんど嘘(うそ)」「ルールを守らない」など掟(おきて)破りな現実を指摘した。“悪貨は良貨を駆逐する”の恐れは否定できないだろう。「移民」について問う番組アンケートでもトップは「治安悪化」の不安だった。

 こうなると打つ手も決めあぐねる。番組では日本が生産年齢人口を維持するには50年で3233万人の移民が必要という国連のデータ(2000年)を示したが、増田氏は「日本社会としてこれだけの数を受け入れる覚悟はできていない」と述べていた。

 小黒氏は、人口が減少すれば消費税30%ぐらいの高負担な国になるとして、「最終的には人口を維持していく政策を打つ体系に日本を変えていくのか、もしくは移民を諦めて人口が減っていくということで政策体系を組み替えていくか、そこの議論が抜けていると思う」と訴えた。平井氏も「人口が減ると社会保障は破綻する」と詰め寄っていた。

 数字で割り切れば小黒氏の言う通り二択の解答を迫られる。菅原氏、増田氏ら政治家的思考で多数の共感を得ようとすれば二兎を追う道を模索する。実に難問である。

◆社会的分裂の恐れも

 が、この討論の始めに番組は「人口は国力」と紹介したが、移民による人口維持は本当に日本の国力となるのであろうか。1億のうち7000万の日本人と3000万の移民という人口構造は、逆境に遭遇すれば深刻な社会的分裂が起こる恐れもある。ウクライナの事態も示唆的だ。

 東日本大震災では略奪や暴動もなかった。移民3000万ではそうはいくまい。関東大震災の時代でさえ朝鮮人暴動の流言飛語で悲惨な事件が起きた。これが将来、中国人移民に対してだったら中国の介入を招きかねない。数を合わせても民族感情が絡めば、国力は人口と生産性だけで測れないだろう。

(窪田伸雄)