軽減税率素案の社説で来年秋の消費再増税を無条件で是とした産経

◆低所得者対策は必要

 自民、公明の両党が5日に、与党税制調査会で生活必需品などの消費税率を低く抑える軽減税率に関する制度素案をまとめた。飲食料品に適用する場合の八つの線引き案と、それぞれのケースが消費税収に与える影響を試算。年末までに具体的な対象品目の選定を進め、2015年度の税制改正大綱への反映を目指すという。

 八つの線引き案は、対象を「精米」に限定したものから、「全ての飲料食品」に広げる場合までの8パターンを提示。消費税を軽減した場合の税収減は、税率1%当たり、約200億~6600億円を見込む。対象が広ければ、それだけ家計の負担は軽くなるが、その分、税収は少なくなる。今回の素案は、国民に広く意見をうかがう趣旨から、選択肢を絞らずに併記している。

 まだ素案ということもあり、これについて社説を掲載したのは産経(8日付主張)1紙のみ。

 消費税の来年10月10%への再引き上げは法律で予定はされているものの、実施するかどうかは年末に首相が時の経済情勢などを総合的に勘案しながら決定する。だから、再増税実施は決まったわけではないが、素案はそのための準備ということである。

 ところで、産経の社説についてだが、見出しは「再増税と同時導入めざせ」である。

 同紙がこう主張するのは、自民党が軽減税率の導入に慎重で、しかも導入するにしても、その時期を「10%時」として「引き上げ時」に特定せず曖昧にしているからである。

 自民党が慎重なのは、消費税収の大半が充てられる社会保障費の財源不足を懸念するからで、導入に際しては対象品目を必要最小限に絞り込む方針という。

 こうした自民党の姿勢に対しては、産経が主張するように、「恒久的な低所得者対策として軽減税率を位置付けるべき」であろう。

◆再増税の「呼び水」か

 消費税は、所得の低い層ほど負担が大きくなる「逆進性」が高いからである。4月からの8%への引き上げでは、低所得者対策として給付金が支払われることになっているが、「暫定的な措置にすぎ」(産経)ず、額も少額である。

 軽減税率は同紙主張の通り、「再増税との同時導入に向けて、制度設計を急ぐべき」で、「導入準備や制度の周知徹底を考えれば、時間的な余裕はない。迅速な作業が求められている」(同紙)ということ。この点は、尤(もっと)もである。

 ただ、同紙で気になるのは、「軽減税率の導入で再増税の理解を得るべきだ」として、来年10月の再増税について何の疑義も持たず、軽減税率をそのための呼び水にしている点である。

 来年10月の再増税については、同紙が4月のFNN世論調査で6割以上が反対していると指摘するように、慎重な意見が多い。

 この世論調査が実施された4月は、消費税が8%に上がった直後ということもあろう。筆者も痛税感を感じる一人だが、物価に敏感になっている人が少なくないということである。

 4月の家計調査が示すように、物価は円安の影響もあって消費税率の上昇以上に上がっていて、賃上げ率をも上回る。今年の春闘では幅広く賃上げが実施されたが、実質賃金は10カ月連続で減少しているのである。

◆脱デフレ求める読売

 駆け込み需要から伸びた1~3月期の国内総生産(GDP)は先日、さらに上方修正されたが、それだけ、4~6月期はその反動減が大きく出そうである。そこに国民が賃金の目減り感を強く意識するようになれば、個人消費に一段とブレーキがかかることが予想される。

 年末に明らかになる7~9月期のGDPがどこまで回復するか。日本経済はいまだデフレ脱却の途上である。無条件に再増税できる状況ではないということである。

 読売は3日付で、「成長と財政再建/やはりデフレ脱却が最優先だ」との見出しの社説を掲載した。財政制度等審議会が財政再建に向けまとめた報告書を論評したものだが、「低成長と財政悪化の悪循環を断ち切るため、政府と日銀はデフレからの脱却を急ぐべきだ」と訴え、成長戦略の中身に注目した。財政健全化のためとして、消費再増税に安易に触れなかったのは、一つの見識である。

(床井明男)