セウォル号事件に韓国の世代間衝突を予言するニューズウィーク誌

◆安全軽視した「大人」

 韓国の旅客船セウォル号沈没事故は韓国社会を大きく変える契機となるのだろうか。ニューズウィーク日本版(6月3日号)が特集「韓国を覆う自信喪失と自虐」で分析している。

 事故以降、「経済力世界10位圏内」「経済協力開発機構(OECD)会員国」と誇っていた「先進国」韓国は政治、マスコミ、国民がこぞって、安全や社会システム、官僚、企業体質において「第三世界」だったと自己批判し、“自虐”を繰り返し、悲嘆に暮れている。と同時に誰かに責任を転嫁し、悪玉探しと追及に狂奔してもいる。同誌は、こうした傾向が「韓国社会を大きく変える岐路となりそうだ」と見通す。

 韓国の発展を支えてきた「突進力」「性急さ」「情実、コネ」「規格・規則軽視」が悪く出たのが今回の事故だ。言い換えれば、「安全よりも経済発展を優先」してきた旧来の「大人たち」の価値観によって造られた韓国の社会システムが破綻し、それが表に出てきているのだ。

 同誌は「よい統治、透明性、法の支配をめぐる真剣な論争は、政財界のエリート層をつなぐ緊密なネットワークを暴くことになる」と指摘する。事故で明らかになった「天下り」「官民癒着」「見かけ倒しの政府機能(大統領府、海洋警察庁等)」などは厳しい検証に晒されていくだろうという見通しである。

 これは同時に、「政治的左派勢力を勢いづかせる」ことになり、「論争は文化論にも発展し、儒教の伝統に基づく人治主義を否定し、マックス・ウェーバーのいう合理的支配を求める声も上がるはずだ」と予測する。

◆価値観対立で変化も

 人治主義は、韓国が途上国から中進国に飛躍する上で大きな原動力として働いた側面もある。だが、社会が成熟し、合理主義や法治に取って代わっていく段階を迎えたにもかかわらず、相変わらず、韓国社会の価値観とシステムは旧態依然としたものだったわけで、今回の事故がそれを暴くことになった。

 同誌は「韓国はリベラルで合理的な国家になる準備ができているのか」と問う。「古い韓国」は「むしろコネ社会こそ、『漢江の奇跡』と呼ばれる急速な経済発展の基礎になった国の結束力に不可欠だったと考えている」わけで、この価値観を捨てることは相当に難しいのではないか、というわけだ。

 一方で、若い世代は「大きく左に舵を切って」、「『古い韓国』にノーを突きつけ、法の支配を要求。財閥の影響力を抑えて能力主義を求めている」から、「セウォル号の悲劇は価値観をめぐる世代間の衝突を引き起こすかもしれない」ともみられる。

 世代間対立はこれまでも韓国社会の深刻な問題だった。特に最近では若年と「大人たち」では「南北分断」「日本統治」などについても、認識の差が出てきており、家族観や師弟関係といった伝統的な儒教価値観でも開きが生じている。

 同誌が指摘するように、事故を通じて韓国は価値観をめぐって世代間論争が強まっていく可能性がある。これに「保守対リベラル」の左右論争が絡まっていくと、韓国社会は深刻な分裂を経験するかもしれない。国論の分裂は北朝鮮に乗じる隙を与えかねない。だが、改革は必要だ。韓国社会の直面する課題の大きいことが分かる。

 朴槿恵(パククネ)大統領は涙ながらに、「悪弊を一掃する」と国民に誓った。だが、旧来の価値観に乗って当選したのは、まさに朴槿恵氏だったことを考えると、改革がどこまでできるかは大いに疑問である。過去同じような改革は何度も失敗してきた。

 「『安全な国』に変われない理由」の記事は、「経済成長のためなら、安全軽視してもやむを得ないという考えが今も韓国社会を支配している」からだと斬って捨てるが、まさにそうした理由で改革が進まなかったのだ。

 同誌は「経済発展と安全対策は本来、相反するようなものではなく、両立できるものだ」と述べ、安全か発展かの「二者択一の議論を繰り返している世論こそ、韓国の変化を阻む最大の闇かもしれない」と結んでいる。

◆メディア改革が必要

 事故を報じる韓国メディアもやり玉に挙がっている。同誌は「韓国メディアの堕落ぶり」でそのことを報じているが、韓国社会の改革は、その前にメディア改革が必要なことが分かる記事だ。日韓関係でも「ネックはメディア」と言われているぐらいだ。彼らのレベルアップは焦眉の急である。

(岩崎 哲)