「美味しんぼ」鼻血描写問題で反原発派に不都合な検証を避ける朝日

◆「聞いたことない」話

 原発事故による“健康被害”などを描いた漫画「美味しんぼ」(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」掲載)が物議を醸した。放射線被曝(ひばく)によって鼻血が出た人がたくさんいるとか、「福島にもう住めない」といった福島大学准教授の発言が載っており、風評被害を助長すると批判された。

 またぞろ、と言うほかあるまい。事故直後から職業的反原発主義者が盛んに鼻血を吹聴した。根拠のない健康被害を書きたてた新聞もあった。だが、被曝による鼻血は一例も確認されていない。放射線医学の専門家は鼻血が出やすいのは1000㍉シーベルト(例えば広島原爆の爆心地)以上の場合で、今回のような低線量被曝ではないとしている。

 被災者の内部被曝調査などにたずさわる南相馬市立総合病院の非常勤医師、坪倉正治医師は「ストレスによりめまいが増えた話は聞くことがあるが、鼻血で搬送された患者の話は聞いたことがない…(事故から)3年たっても急性放射線障害について誤った認識が議論になることに驚いている」と述べている(産経13日付)。

 「美味しんぼ」では福島第一原発の地元、双葉町の前町長、井戸川克隆氏が鼻血話を語り、騒動後の記者会見でも「実際、鼻血が出る人の話を多く聞いている。私自身、毎日鼻血が出て、特に朝がひどい」と発言している。

 もっとも、この人の話には眉唾が必要だ。独り善がりの言動が原因で町議会から全会一致で不信任された。反原発派に担がれ国政選挙に出馬するも落選(地元でも得票率2割台)。彼らから鼻血話を聞かされたのかもしれないが、町長時代に確かめた節はない。自らの鼻血を医療機関で検査した話も聞かない。それでいて被曝が原因であるかのように吹聴している。

 福島大学准教授の「福島に住めない」話も怪しい。これは朝日が書いていることだが、準教授が編集部に福島全体が住めないと誤解を招きかねないとして自らの発言を使わないよう求めたが、拒否されたという(21日付)。いずれにも科学的根拠がないのだ。

◆判断を読者に丸投げ

 本紙はいち早く社説を掲げ、「風評被害が生じかねない」(10日付)と批判した。読売は13日付社説で「風評助長する非科学的な描写」、産経は14日付主張で「独善で風評を助長するな」と続いた。

 産経は「(描写は)科学的根拠と客観性、さらに結果への配慮が決定的に欠ける」「特に悪質なのは、反原発・脱原発の主張を浸透させるために住民の不安をあおり、絶望感を増幅させる表現や行動である」と断じている。

 これに対して朝日社説は「『是非』争うより学ぼう」(14日付)とし、「私たち一人ひとりが、『うそだ』『本当だ』と振り回されるのではなく、巷にあふれる情報から自分自身で納得できるものを選びとる力を養っていくことが大切だろう」と話を逸らす。

 それならば、STAP騒動でも同じせりふを吐いてみればどうか。「巷にあふれる情報」を精査し、真実を追求するのが新聞の役割のはずだ。朝日綱領には「真実を公正敏速に報道」とある。それを放棄し、判断を読者に丸投げして逃げる。これでは朝日の存在理由はない。新聞週間の標語(05年)に「『なぜ』『どうして』もっと知りたい新聞で」があったが、この標語も裏切っている。

 朝日には科学・医療担当の論説委員がいるはずだが、いったい誰が書いたのか。社説はともあれ、「調査報道」を売りにするのだから、紙面では放射線の専門家に取材し鼻血の検証をきちんとしていると思いきや、今に至るも見当たらない。

◆毎日は専門家を取材

 唯一、それらしいのが載ったのは18日付社会面だが、これは小学館が「編集部の見解」を掲載した同誌特集号の引き写しで、自ら調査した形跡がない。反原発の“社是”に背く「不都合な真実」は封印してしまえということか。

 同じ反原発でも毎日は「専門家は否定的」(13日付)との見出しで放射線医学の専門家を取材している。社説では「『鼻血』に疑問があるが」(15日付)と煮え切らない言い回しだが、それでも鼻血に否定的だ。

 「美味しんぼ」問題は朝日のいかがわしさも浮き彫りにしたようだ。

(増 記代司)