人口1億人維持に国民の心理的要因の重要性に言及した毎日と産経
◆未来委提言に肯定的
国家は主権と国土と国民によって成立する。主権と国土(領土)はあまり変わることはないが、国民は人口の増減によって数が変化する。一般的に人口が増えるのは国の活力が増し、減ることは衰弱していると見られる。人口の増減は国力の盛衰を示すバロメーターだ。
日本の人口急減に歯止めをかけ「50年後に1億人の人口」を保つために数値目標を掲げた提言を、政府の有識者会議「選択する未来」委員会(三村明夫会長=日本商工会議所会頭)が13日にまとめた。
提言は6月にまとめる経済財政運営の指針(骨太の方針)に反映されるが、指針に政府として初の人口目標となる「50年後も人口1億人」の数値目標が盛り込まれると、人口減少歯止めに取り組む政府の本気度を示すことにもなる。今後、指針における数値目標の取り扱いにも注目が集まろう。
新聞の論調は概(おおむね)ね、肯定的にとらえていた。読売(14日社説)は「日本経済と社会の活力を維持するためには、人口の減少を食い止める必要がある。政府が主導し、本格的な対策へと舵(かじ)を切るべき時だ」とハッパを掛けた。日経(14日社説)も「過度な人口減少は人間の集積や交流を通じた技術革新を阻む。国民生活の質を低下させかねないと報告書が警鐘を鳴らしたのはもっともだ」と理解を示した。
◆子供重点を読売評価
提言が1億人程度の人口を維持するための前提条件としたのは、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率で、今の1・4前後が続くと50年後の人口が8700万人に減少すると見通した。これを2030年までに2・07に回復させることが必要と想定した。
この合計特殊出生率2・07について日経は「主要国で出生率が2に達しているのはフランスだけで、あまりにも高すぎる」と疑問視。産経(15日主張)も「これは極めて高いハードルだ」との認識を示した。
だが、その上での展開は違った。日経は「有識者でつくる日本創成会議は先に『国民の希望がかなった場合の出生率』として1・8を示した」ことを持ち出し、この現実的な目標を目指し、足りない分を「外国人材の活用を併せて考える」ことを提案。一方の産経は「だが、これまで成果を出すことができなかった現状を考えれば、目標数値は大きいほうがよい」と楽観的に受け入れた。読売は「夫婦が理想とする子供の数は平均2・4人とされる」とさらに上をいく数字を目標にあげた。
目標と実際の出生率との差について読売は「経済的理由などで、結婚や子育てをあきらめる人が多いことを物語っている」もので、その対策に「非正規労働者の処遇改善や、子供の多い世帯への支援強化など、子供を産み育てやすい環境作りの重要性」を提言が打ち出したことを後押しした。この点は各紙も支持しており毎日(17日社説)も「非正規雇用が全体の4割近くを占める現在、安心して結婚や出産ができる雇用環境の整備は急務だ。貧困家庭の子も十分な教育を受けられる施策も必要」だと指摘。
問題は財源の確保をどうするかである。読売は提言が「予算配分の重点を高齢者から子供へと大胆に移し、出産・子育て支援を倍増させるとした」ことを「厳しい財政状況を考えれば、現実的な施策」と評価。小紙(16日社説)も社会保障の重点を高齢者から子供に移すことを「これは日本の福祉政策の大きな方向転換と言える。国の将来を見据え、必要なところに支援が行き渡るようにする妥当な選択だ」と強く支持したのである。
◆沖縄に注目した毎日
各紙とも概ね提言の施策を肯定的に評価する中で、人口1億人維持に欠かせない国民の心理的要因の重要性に言及したのが毎日と産経である。毎日は「国内で出生率が高いのは、多世代同居で祖父母が孫の世話をしたり、近隣の支え合いが残っていたりする地域が多い。失業率や離婚率が高くても子供がたくさん生まれている沖縄は、近隣の関係が密な上に『産めば何とかなる』という楽観的な雰囲気が出生率向上に影響しているとの指摘もある」ことを紹介。
産経も社会環境の整備が急務と迫る一方で「何より重要なのは、家庭を築く楽しさを社会全体で再確認することだ。既婚者が家庭を持った喜びや充実感をもっと語る」ことの必要を強調した。両紙の視点が多世代同居の家族や社会の基盤となる家庭を見直すことに向けられたことに注目したい。
(堀本和博)