南シナ海での中国船によるベトナム船への体当たりを分析した新潮

◆行動に出ない米国側

 南シナ海のパラセル(西沙)諸島海域で中国艦船がベトナム艦船に体当たりして、緊張が高まっている。ベトナムでは反中国暴動が起こり、各地で中国系企業や工場が焼き打ちに遭うなど、騒動が広がっている。

 同じように中国の力による膨張主義に直面しているわが国としても、南シナ海事態の推移は見逃せない。週刊新潮(5月22日号)が取り上げている。トップで掲載された「全地球的に嫌われる『中国』の悪行一覧」という特集の冒頭がこの話題だ。

 中国が「暴挙」に出た狙いについて、「外交評論家の田久保忠衛氏」は「アメリカがどう出るのかを見ようということです」と語り、「京都大学名誉教授の中西輝政氏」も「正面きって中国とは対立はしたくないであろうアメリカを“試した”のです」と分析している。

 中国側が「石油掘削のための設備を搬入した」ことはきっかけにすぎず、中国は確信をもって、米国の出方を見るために、ベトナム船を追いかけ回し、体当たりをしたわけだ。

 分析は分かった。それで、どう日本に波及してくるのか。中西教授は「舞台は東シナ海へと移っていくでしょう」と予言する。東シナ海にも「日中双方が権益を主張する天然ガス田『白樺』(中国名・春暁)がある」が、「中国が一方的に掘削作業を始める可能性は十分に考えられます」というのだ。

 そうなると、「日本は自衛隊を派遣できるのか。ドンパチの一歩手前の状況に耐えられるのか。今のうちにそこまで想定しておく必要があります」と、中西氏は警告する。

 中国は南シナ海で米国の出方を見た。今までのところ、米国は何の行動もとっていない。これをみて、中国は「頃やよし」とばかりに、東シナ海で大胆な行動に出てくる可能性が高いという見立てだ。ならば、自衛隊の準備は如何に、ということである。

 オバマ米大統領は来日時に、「沖縄県・尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用範囲である」と明言した。言葉だけは残して行ったが、これに具体的な行動が伴うのかどうか、同誌はそこまでの分析はしていない。

 大統領が自身の言葉を違えることはないだろうが、仮に、自衛隊艦船と中国艦船の衝突が起こった時、在沖米軍がどう動くのか。事態を静観していると、そのうち中国が瀬踏みに出てくることも考えられる。同誌はその辺の分析をもう少し突っ込んでほしかった。

 もっとも、「全地球的に嫌われる『中国』」が特集のテーマなので、そればかり掘り下げることはできなかったのだろうが。

◆現在語らない古賀氏

 週刊朝日(5月23日号)が「古賀誠自民党元幹事長、安倍自民を叱る」というインタビューを載せている。安倍晋三首相の言動が「右傾化速すぎ、危険な暴走だ」の見出しが全てを語っているが、こういう発言が党内から出てくることは、よその国と違って、確固とした民主主義が根付いていることを示すものだ。

 だが、周辺を見回せば、覇権主義の野望を隠さない中国や、反日姿勢を強める韓国、領土的野心を露(あら)わにするロシア、かつての「世界の警察」でなくなった米国など、東アジア情勢は確実に変わっている。状況の変化を読んで備えるのは国のリーダーの使命だ。

 古賀氏は、「戦後69年、あの荒廃から今日の繁栄がある根底には現行憲法があった」と意義を説くが、それはよしとしても、現在の情勢の変化については見解を述べていない。そういう批判なら誰でもできるのである。

◆警察丸投げの中学校

 この記事の次に、「兵庫県中2男子が自殺、両親が告発」の話題が載っている。考えさせられる問題だ。中学生が校内でケンカし相手を負傷させた。被害生徒が警察に被害届を出した。それを苦に加害生徒が自殺した事件だ。学校は当事者同士での解決をとらず、被害届けを勧めた。教師は加害生徒にそのことを伝えなかった。校内に警察が入ってきて捜索する様子を見ながら、加害生徒は「針のむしろ、地獄の日々」と気に病んでいた。彼へのケアはなかった。

 学校内での暴力事件は処理が難しい。多感で敏感な中学生の心を見つつ、処理しなければならないが、同誌の取材で明らかになるのは、生徒の教師や学校への不信感であり、警察に丸投げしてしまう今の中学校の体質だ。

 遺族の無念さとやりきれなさが残る事件だ。書いて終わりにせず、丁寧な続報も読みたい。

(岩崎 哲)