STAP細胞有無めぐる報道合戦は一段落か?AERAの関連記事
◆京大の両雄の“明暗”
新しい万能細胞STAP細胞論文をめぐる一連の問題で、朝日新聞社系週刊誌AERA4月28日号は見開きで二つのテーマを扱っている。一つは「STAP細胞vsiPS細胞 京大超エリートの明暗」と題した記事。同論文の共著者、笹井芳樹氏(52)とノーベル賞受賞者の山中伸弥氏の研究姿勢などを比較している。
「笹井さんは京都大学医学部卒。36歳の若さで京都大学再生医科学研究所教授に」なった人物。笹井氏の理研への移籍で空いたポストに就いたのが山中伸弥教授だ。この間、山中氏はiPS細胞を開発し12年、ノーベル医学生理学賞を受賞した。一方、今回STAP論文の疑惑が浮上し笹井氏の論文への関わりについて取り沙汰され、2人の間で明暗が分かれたというのである。
記事では「理研の調査委員会は、笹井さんの研究不正行為はなかったが、立場や経験などから責任は重大だと報告している」との事実を押さえた上で、16日行われた笹井氏の記者会見の内容を次のように取り上げている。「だが、笹井さんは、会見で、共著者としての役割が部分的であったことを強調した。センター長から依頼され、論文投稿前の最後の2か月だけ『文章の書き直しなどに加わっただけ』と説明した。小保方さんが直属の部下でないこともアピール」と。笹井氏の弁解を連ねる姿勢に学者としての不誠実さを読み取っている。
記事のもう一つのテーマは「理研を震撼させた小保方弁護団のプロっぽさ」と題し、問題論文の主著者、理研の小保方晴子研究ユニットリーダー(30)を支える大阪弁護士会に所属する4人の弁護団の面々を紹介している。「中心となる三木秀夫弁護士は(中略)元大阪弁護士会副会長」で、ほかに消費者庁の消費者安全委員会の委員、12年度に大阪弁護士会の会長を務めた重鎮、特許や著作権などの知的財産問題の専門家など。理研の調査などで、小保方氏がすっかり悪玉になっているが「“凄腕”弁護団の登場で流れは変わるか」と投げかけ記事を締めている。
◆素人談義も巻き込む
今年1月30日の朝刊にSTAP細胞の発見が大々的に紹介され、小保方氏への突然の脚光、疑惑発覚、調査委員会の「ねつ造」断定、小保方氏らの巻き返しと続いたが、STAP細胞の存在の有無をめぐって、国民が一喜一憂、まったくの素人談義さえもまきこんで大いに話題となった。
問題にしたいのは、この間、メディアが果たした役割についてだ。不正を見抜けなかったのは、確かにメディアの責任ではない。しかし、STAP細胞は、今のところ学術論文の中でだけ存在するレベルのことであり、その点を前面に出して報道する視点もあったが、バスに乗り遅れるな式で雪崩を打って報道された。一連のSTAP細胞報道で省みるべき点は少なくない。
疑惑が明らかになり、朝日新聞は3月15日の1面に福岡伸一・青山学院大教授(生物学)の「科学巡る課題浮き彫り」と題した文章を載せた。福岡氏は「問われるべきは個人の資質や共著者の責任だけではない。メディアも当初は無批判に称賛していたし(中略)論点は限りなくあるように思える」などと書いた。当初、無批判な称賛の旗を振った当事者の新聞が、そのことを諌(いさ)める専門家の一文を麗々しく載せるその神経もよく理解できないが、ともかく重大な指摘だ。
AERAの今回の記事内容でも分かるが、メディアがSTAP細胞の有無についてすでにこれ以上議論を展開するのは手に余る状態だ。結局、人事や理研と小保方氏との軋轢(あつれき)模様などを記事にするしかなくなっている。
特に最近の生命科学の進展は著しく、それをフォローするだけでも大変だ。先日の笹井氏の記者会見について「STAP細胞の新たな証拠は示されなかった」という評論を見かけたが、これも記者が笹井氏からそれを引き出すような質問ができなかったという側面が強い。
◆報道スタンス再考を
新聞や新聞社系の週刊誌が科学記事をジャーナリスティックな視点をまぶして展開するようになったのは、1980年代ごろから。朝日系のAERAは科学記事の素早い掲載で他誌との違いを見せてきた。確かに優秀な記者もいるのだろう。しかし今回のSTAP細胞論文をめぐる報道の顛末を見ると、科学記事に関する報道スタンスの再考が必要だ。
(片上晴彦)