消費税増税に「転嫁着実に乗り切れ」だけでは物足りない日経社説
◆税収を評価した読売
4月1日。消費税の税率が1997年4月以来17年ぶりに引き上げられた。5%から8%への引き上げで、国民の税負担は年間で約8兆円増える。しかも、これは2012年8月に成立した消費税増税法で決まった増税の第1弾で、15年10月に第2弾として10%への増税が予定されている。
消費増税は景気に対してはマイナスであり、2度の消費増税によるデフレ圧力は計約13兆円。この大きさは、その後、景気を腰折れさせ、日本経済を10年以上もデフレ状態にし、財政をも一段と悪化させることになった97年度の前回の消費増税を含む超緊縮予算によるそれとほぼ同規模なのである。
こうした今回の消費増税について、日経以外の各紙が、通常2本立ての枠に1本でまとめた大社説で論評を載せた。
日付順にそれらの見出しを並べると、3月30日付毎日「増税の原点、再確認せよ」、31日付読売「社会保障安定への大きな一歩/景気失速の回避に全力尽くせ」、産経「国民が納得する成果示せ/円滑実施で早期の経済再生を」、日経「17年ぶり消費増税、転嫁着実に乗り切れ」、4月1日付朝日「改革の原点に立ち返れ」、東京「国民の痛みに心を砕け」、本紙「景気下支えに万全の態勢を」である。
見出しでも分かる通り、最も好意的なのは読売。同紙は、「消費者全体で幅広く負担する消費税の増税によって、安定的な税収を確保し、社会保障制度を維持・充実する意義は大きい」と評価し、「国民に一層の負担を求める以上、効果的な施策を実施しなければならない」と注意を促した。
◆朝・毎は目的を強調
また、安倍首相が「増税の悪影響を最小限に抑え、速やかに景気が回復軌道に戻るよう万全を期す」と強調している点も「もっともだ」と評価する。その表れが、公共投資を柱とする5・5兆円の13年度補正予算と、一般会計総額が過去最大の95・9兆円となった14年度当初予算である。
この両予算を、逆に「政権からは(財政に対する)緊張感が一向に伝わってこない」などと批判するのが、似た見出しの朝日と毎日である。
両紙が言う「原点」とは、消費増税の目的である「社会保障と税の一体改革」、すなわち、社会保障財源の安定的確保による財政再建である。消費増税は国民にとっては、つらい負担増だが、日本の現状を考えればやむを得ない選択なのに、「政権からは…」というわけである。
確かに、もっともそうだが、今はデフレ脱却を目指す途上である。増税を実施する以上は、増税による景気の腰折れは是が非でも避けたいと政権が考えることこそ、読売が指摘するように「もっとも」であろう。
この点、産経は朝日や毎日と同様、「(消費増税による)税収増を前提に予算をばらまくといった余裕は全くない」と批判しながら、「財政健全化は増税だけでは達成できない。経済成長の同時実現が不可欠だ」として、14年度予算などで増税による景気の落ち込みを抑制する対策を講じ、その前倒し執行で景気の下支えを図るのは「当然」と言う。本当に「ばらまき」と見るなら、自己矛盾である。
もっとも、今回の消費増税実施そのものが、デフレ途上であることを思えば、「アベノミクス」による景気回復を自ら失速させようとする大きな矛盾と言えるが。
◆「弱者」で東京に一理
この点、本紙とともに消費増税に反対していた東京は、最も批判的である。しかし、現実に消費増税が実施された以上は、その中で最善を導き出すしかない。本紙が「景気下支えに…」と強調するのも、そのためである。デフレ脱却にこぎ着けるまで景気重視は続けるべきである。
ただ、東京が指摘するように、「弱者対策にもっと目配りすべきだ」との主張は一理ある。この点は、読売や毎日も指摘しており、一回限りの低所得者への給付金では不十分である。さらに、第2弾の15年10月の10%への増税は、東京が言うように「慎重にすべき」で、実施するのであれば、「生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入が不可欠」(読売など)なのは確かである。
それにしても、日経社説は物足りない。通常のスペースであるのもそうだが、他紙にみられる懸念は一切なく、ただ「転嫁着実に…」の方法論に終始している。
(床井明男)