エネルギー安全保障の重要性に触れず紋切り型の反原発論に終始する朝日


宇宙から見た地球の写真。=NASA(Unsplash)

危機迫るウクライナ
 ロシア軍がいつウクライナに侵攻しても不思議ではない。そんなきな臭いニュースが連日、伝えられる。2014年にウクライナ領土のクリミア半島が奪われた際には、東部地域で市民を含む約1万4000人が犠牲になった。首都キエフに侵攻すれば、どれほどの血が流されるだろうか。

 朝日1月30日付に国際報道部の機動特派員、金成隆一氏のキエフ現地報告が載っていた。住宅街のビルの地下にある銃販売店の射撃場を訪ね、射撃訓練を行っている若者3人に話を聞いている。いずれも軍人ではない。「もちろん家族と国家を守るためだ。ウクライナ人は愛国者の集まりであることを、ロシアは知っておいた方がいい」と毅然(きぜん)と答えていたのが印象的だった。

 本紙2月6日付にはキエフの大学で教壇に立つ元ウクライナ陸軍大佐の書面インタビューが紹介されていた(時事5日)。そこでも住民の多くは「(ロシアと)戦う用意がある」と表明し、志願者は軍事訓練を受けているという。テレビでも若い女性が射撃訓練する映像が流れていた。

 ウクライナ人には苦い経験がある。ソ連支配下の1930年代にモスクワの指令で強制移住を強いられ、家畜や農地を奪われ400万人(一説では1450万人)が死に追いやられた。これは「ホロドモール」と呼ばれる。ウクライナ語で「飢饉(ききん)(ホロド)」で「苦死(モール)」させるから、この言葉が生まれたという。単なる飢饉でなく、ソ連による人工的飢饉。「ジェノサイド(大虐殺)」である。

 元大佐の祖父母と曽祖父母は「ホロドモール」で亡くなり、父は7歳で孤児になった。「ロシアは罪を認めないどころか同じことを繰り返している。今度は武力によるウクライナ征服だ。…これが国家存続の問題であり、国を守るか、ロシアに殺されるか、という瀬戸際の状況だということを理解している」と、元大佐は戦う決意を披歴している。

原発増設を決めたフランス

 欧州連合(EU)は、輸入する天然ガスの約4割をロシアに頼っている。ロシアがウクライナに侵攻すれば、米国とEUは経済制裁に踏み切るとみられ、ロシアはその報復としてEUへのガス供給を止める可能性がある。それを受けて日本は輸入する液化天然ガス(LNG)の一部を欧州に融通する方針を決めた。これを各紙そろって10日付で大きく報じている。

 ウクライナ危機は日本の資源輸入にも波及する。毎日10日付は「LNGの輸出先として欧州も存在感を発揮すれば、市場価格はさらに高騰する恐れもある」と警鐘を鳴らしている。欧州委員会は原発を地球温暖化対策に役立つエネルギーと位置付けたが、それだけでなく安全保障つまりエネルギー安保という視点でも重要性が増したと言えよう。

 そのことはフランスのマクロン大統領が10日、次世代型の原子力発電所6基を新たに建造すると発表したことで明らかだ。目的は脱炭素化の推進と「エネルギーの自立性を高めること」(読売12日付)。「自立性」とは安全保障にほかならない。マクロン氏は7日にモスクワを訪れ、プーチン大統領とウクライナ問題で会談してきたばかりだ。その直後の原発増設の発表はエネルギー安保の重要性を再認識したからに違いない。

能天気な朝日的言説

 ところが、である。朝日はエネルギー危機にも金成機動特派員の現地報告にも馬耳東風の体である。10日付社説「EU原発回帰 日本の選択肢ではない」には、エネルギー安保のアの字も書かれていない。ウクライナ危機をめぐる天然ガスの動向についても完全にスルーしている。「可能な限り原発依存度を下げ、再生可能エネルギーの導入を進めるという政府の方針を忘れずに、脱炭素に取り組むべきだ」と、紋切り型の反原発論に終始している。

 何という能天気か。それとも「平和憲法」が日本を守ってくれると信じているのか。国際社会には通用しない朝日的言説と言わねばならない。

(増 記代司)