モノ作りの伝統生かし世界シェア1位、製造業の底堅さうたうポスト


工場のイメージ

環境保全設備が隆盛
 地球温暖化対策が課題となり、将来性のある事業の一つとして上げられるのが環境保全設備。週刊ポスト2月11日号の「世界シェア1位の32社実名リスト/知られざる超優良企業」で、その分野を手掛ける二つの企業が紹介されている。

 一つは大阪市北区に本社を置く「環境試験器」の大手メーカー・エスペック。環境試験器とは、工業製品の耐久性や信頼性をテストするために、特定の気象環境条件を人工的に作り出す機器のことで、エスペックは世界シェア1位(世界30%以上、国内60%以上)を誇っている。

 エスペックは「1961年、日本初の環境試験器の開発に成功。(中略)70年代後半には需要の高まりに応える量産体制をいち早く整えた」(同社担当)。世界に目を向けての事業展開も早く「60年代から輸出を開始し、80年代初めには米国に現地法人を、中国には合弁会社を設置」「製品の信頼性を支える環境試験のトップブランドという自負からか(中略)特に品質やモノづくり、技術志向が強い傾向」(同)を強調している。

 もう一つは本社が滋賀県野洲市にある「船舶排気ガス処理装置用バタフライバルブ」という、やはりこれも環境浄化の独自製品で世界シェア1位のオーケーエム。近江商人の発祥の地とされる滋賀県蒲生町で1902年、のこぎりメーカーとして誕生。薄い鉄板を加工したのこぎり製造で培った技術を応用し、62年にバルブメーカーとして第二の創業を遂げた。現在ではアジアだけでなく中東・アフリカにも販路を広げるグローバル企業だ。

昭和のモノ作り守る

 両社の共通点は、環境保全の事業+昭和からの技術を改善、駆使したことで、「昭和の時代に生まれた『モノづくり』の力は令和の時代も生きている!『すべては60年前の挑戦から始まった』」(見出し)ということだ。

 経済アナリストの馬渕磨理子さんは記事中、「米国の巨大ITプラットフォーマーが世界を席巻している印象が強いですが、日本企業はそれとは違った形で存在感を示してきました。戦後の高度成長期を経て世界の製造業が大きくなっていくなかで、日本企業はさまざまな分野でそれらを支えてきました。日本のモノづくりの強さはまさにここにあります」と注目している。

 確かに、環境保全の技術分野が新しい投資先として光が当たってきたのは90年代。くだんの2企業は、それよりずっと以前からその時期を睨(にら)み、自らの技術を磨いてきたのだから相当に先見の明があったというべきだ。この間、思いつくだけでも、冷戦体制崩壊、55年体制崩壊、バブル崩壊・長期不況、金融不安などを通じて産業組織の大転換があったが、昭和のモノづくりの伝統を守り発展させ、結実させた好例であろう。

 さらに言うなら、日本の民間企業の8割は中小企業であり、その多くが文字通り昭和からの技術を発展させ、今も産業組織や市場の中で、技術開発を続けている。これらの企業の輪がサプライチェーンなどにも貢献し、わが国の産業組織の層の厚さ、総合力の高さを維持、発展させる力になっていることを忘れてはならないだろう。

中小企業への期待大

 一方、2月11日号週刊朝日での「ニッポンの技術はやっぱりすごい!!」が面白い。着々と製品化されつつあるとして紹介されているものを羅列すると・災害時のがれきの中、小さな隙間に入り行方不明者を探索する小さなロボット(昆虫サイボーグ)・必要な電力を賄い二酸化炭素も吸収する人工光合成の家・休耕地(陸上)を利用して養殖(バナメイエビ養殖)・線虫が尿の匂いでがんを発見する検査―など。

 これらは将来性が不明なこともあって既存の大企業が手を出しにくい分野が多い。今後、新産業を担う起業家や中小企業への期待はことに大きくなっているのが分かる。下請け中小企業の専門性が深化し、自らの技術力を高め、開発力を保持していってほしい。
(片上晴彦)