五輪政治利用の中露首脳会談非難するもリアリズム欠落の毎日社説
共闘を演出した中露
北京冬季五輪開幕の4日、北京の釣魚台迎賓館で行われた中露首脳会談に関し日経、毎日が社説を張った。
6日付の日経社説は「ひたすら技を競い合うべき平和の祭典に軍靴の音さえ聞こえかねない国際政治上の対決を持ち込んだ責任は重い」とバッサリ切り捨てる。
中露首脳会談では、「民主主義や人権を、他国に圧力をかける道具に使うべきではない」と主張、五輪の露骨な政治利用を図った。さらに両首脳会談では北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対する共同声明を出し、ロシア軍侵攻が取り沙汰されるウクライナ問題で共闘を演出した。欧米諸国から制裁をちらつかされているロシアは中国カードを切り、日米豪印のQUAD(クアッド)や豪米英のAUKUS(オーカス)など西側諸国の包囲網に対し中国はロシアカードを切った格好だ。
日経は続けて「会談後、…その足で開会式に臨んだ。見下ろす位置にいるプーチン氏を感じつつ入場行進したウクライナ選手は、心がざわついたに違いない」と社説にしては珍しく心情描写を試みている。
軍事的揺さぶりの罠
一方、6日付の毎日社説は「中露首脳会談 『五輪休戦』の責任自覚を」と題し、「ウクライナ問題では両国は必ずしも一枚岩ではない」とし、ウクライナは中国の有望な投資先であり経済関係を拡大、軍事衝突を望んでいないとした。
そのため「いたずらに欧米との対立を強調するのではなく、対話による解決を働きかけるのが、中国としてあるべき立場なのではないか」と進言、「ウクライナを大国間の新たな対立の舞台にしてはならない」と結論付けた。毎日社説は観念的空想主義とも思えるような典型的な「絵に描いた餅」で、リアリティーが欠落している。
強権国家は軍事力などの強硬措置を行使し、西側諸国を揺さぶってくる。この時、目の前の平和を求めると強権国家の軍事的揺さぶりの罠(わな)にまんまとはまることになる。対話路線もその罠の一つだ。相手が力で威圧してくるなら、こちらもその威圧をかわす力がないと対話する場すら担保できなくなる。それがチキンレースの常道だ。
なお軍事専門家筋はNATO拡大阻止を掲げるロシア外交に対し、高いボールを投げてはいるものの狙っているゴールは、ロシア系住民が多いウクライナ東部のドンバスでの特別の地位を認めさせることといった見方が大勢を占める。
だが、戦争しないまでも軍事力に訴えて、政治的バーゲニングパワーを獲得するといったことを国際社会は断じて許してはならない。そうした力による威圧外交が通じないことをはっきりさせておく必要がある。
そもそも、ロシアは国家ぐるみのドーピング違反で制裁を受け、プーチン氏は主要な国際大会への出席を禁じられている。今回は例外規定を用い習近平氏の計らいで北京五輪に出席できた。
例外的措置というと2009年12月、副主席時代の習近平氏訪日に関し、強引に天皇陛下との会見を求めた天皇例外会見の記憶が鮮明によみがえる。
この時は天皇陛下との会見申し込みは1カ月前までにとの1カ月ルールを無視した、例外的な会見実現に向け小沢一郎民主党幹事長(当時)らが動いた結果、横紙破りが実現したが、皇室外交が政治に使われた前代未聞の出来事に世論が沸騰した経緯がある。
名ばかりの法治国家
なお例外規定を利用しての北京五輪出席やルール無視の例外的天皇陛下会見など、個人の意向や意思が規範を超えてしまう政治行動というのは、独裁政権の特色だ。
そもそも共産党独裁政権というのは、法や憲法を利用して国民を縛り付けることには意欲的だが、党そのものが憲法の縛りを受けるという発想は皆無に等しい。法は万人が守るべき普遍的なものではなく、あくまで国民を統治する政権の道具でしかないのだ。
これでは法治国家とは名ばかりで、共産党のご都合主義が跋扈(ばっこ)するだけだ。
(池永達夫)