福島を苦しめる反原発派元首相「5人組」の「風評犯罪」に加担する朝毎
誤情報広め差別助長
それにしても呆れた「5人組」である。菅直人、小泉純一郎、鳩山由紀夫、村山富市、細川護熙の5人の首相経験者が欧州連合(EU)の原発容認に反対する書簡を宛てた。
反原発を唱えるのは勝手だが、その中に東京電力福島第1原発事故の影響に触れ「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ、この過ちを欧州の皆さんに繰り返してほしくない」とあった。よくも平気で嘘(うそ)っぱちが言えたものだ。憤りを越して呆れてしまった。
この問題は本紙読者なら3日付社説「復興妨げかねない軽率な言動」で承知の通りだ。産経3日付「阿比留瑠比の極言御免」も「福島苦しめる菅直人氏ら5元首相」と弾劾している。読売は5日付で追っているが、他紙はほとんど扱わない。朝日は福島版でわずかに載せ、全国版ではだんまりを決め込んでいる。
環境省は2月1日、山口壮環境相名で反論文「福島県における放射線の健康影響について」を明らかにし「誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長することが懸念されます」と指摘している。だが、懸念だけでは済まされない話だ。
福島県民である筆者は原発事故後、「被害」を追ってきた。事故から10年目の昨年、被害実態を網羅した『東京電力福島第一原発事故から10年の知見 復興する福島の科学と倫理』(丸善出版)が出版され、本欄でも紹介したことがある(同6月22日付)。
そうした知見によれば、事故直後に放射線被ばくによって病気になったり亡くなったりした人は1人もいない(事故後の収束作業による、がん発症は8例=昨年9月現在)。チェルノブイリ原発事故では1万9000人以上が甲状腺がんになったので、福島県は事故当時18歳未満の約38万人の甲状腺検査を行った。
その結果、がん疑いは252人で203人が手術を受けたが(昨年3月現在)、放射線の影響は考えられない(県専門家部会)。青森県、長崎県、山梨県で4000人以上の子供の比較調査が行われたが、統計上の有意差はなかった。
国連科学委員会は福島第1原発事故に関する2020年版報告書で、甲状腺がんについて被ばくが原因ではないとの見解を示し「フクシマはチェルノブイリとは違う」との明確なメッセージを出した。5元首相の書簡は科学的知見にまったく反する。
弊害生む「過剰診断」
そもそも甲状腺がんは、がんといっても命や健康に関わりがない。大半は検査しなければ生涯、気づかない。病理学者の調べでは遺体の1割に甲状腺がんが認められる。フィンランドでは3割だという。無症状なので、がんと知らないで亡くなっていた。だから一般的ながんの「早期発見・早期治療」の必要はなく、症状が出てから治療すれば、治る性質のものだ。
ところが、福島では治療の必要のないがんまで見つける「過剰診断」に陥った。国連科学委員会は県が高感度の超音波検査を使用したため、生涯発症しないがんを見つけた可能性を指摘している。事故当時、環境相で原発事故収束担当大臣を務めた細野豪志氏(現、自民党衆院議員)は昨年2月に著した『東電福島原発事故 自己調査報告』(徳間書店)で「過剰診断」を憂いている。
同著で甲状腺検査に携わってきた医師の緑川早苗さんは「過剰診断」の弊害を詳述している。無症状でも「がん患者」扱いされ、首に手術痕が残り、生命保険やがん保険の加入や進路選択、結婚や就職でも不利益を被る。福島の子供が苦しんでいるのは、こうした「過剰診断」やいわれのない差別や偏見だ。5人の書簡は「風評犯罪」に等しい。
沈黙する立憲・共産
本紙と産経が問題視するのは当然だ。自民党は5人を非難し風評の払拭(ふっしょく)に向け政府に情報発信の強化を求める決議案をまとめた(産経5日付)。だんまりは立憲民主党や共産党で、朝日と毎日も同類。5人組ら反原発派の「風評犯罪」に加担している。
(増 記代司)