クリミア危機でロシアのウクライナ東部侵略を懸念し警告した朝日

◆急展開を先読みせず

 ウクライナ危機が深刻の度を一層深めている。ロシアによるウクライナ南部クリミア編入が“悪は急げ”とばかりに一気呵成(かせい)に暴走したからだ。ロシア軍が軍事介入し事実上、掌握したクリミアで3月16日に国際社会が認めない住民投票を強行。それに基づいて17日にクリミア共和国がウクライナからの独立を宣言すると、ロシアは即応して国家承認し、18日にはクリミア共和国との間でクリミアのロシア編入に関する「条約」に署名した。24日にはウクライナ新政権がクリミア半島駐留ウクライナ軍の撤収命令を出すことを決定したことで、クリミア半島はロシアの軍事支配下に入ったのである 。

 ロシアの武力を背景としたクリミア編入は国際法に違反し、核兵器放棄に際して米露などがウクライナに約した領土保全の保証を反故にするなど、あらゆる違法な試みを重ねるもの。これを非難する国際社会が編入を承認せず、先進7カ国(G7)首脳会議(24日夕、オランダ・ハーグ)がロシア・ソチG8サミットをボイコットするなど対ロシア制裁の姿勢を強めるのも当然である 。

 ロシアの違法なクリミア編入を阻止できなかった米欧は、ロシアが次に狙うウクライナ東部侵略の阻止に向け、体を張った対応が求められている。ウクライナ危機が深刻度を深める中で、新聞論調は24日までの1週間に各紙ほぼ2回もの社説を掲げた。だが、国際法違反の編入など国際社会は認めないと批判するだけで、急展開する事態の厳しさを先読みするまでに至らない言論ではやや歯がゆい。

◆監視団派遣を訴える

 その中で、ロシアのウクライナ東部侵略の懸念にまで詰めて言及し警告したのは朝日(19日社説)と産経(同主張)、それに読売(20日社説)と小紙(23日社説)である 。

 13日付小欄でも、朝日のこの問題への積極的な主張の展開を紹介したが、今回も社説タイトルはずばり「編入は最悪の選択だ」。クリミア編入で「経済とともに、大国としての地位と信頼を決定的に傷つけることになろう」との見方を示した 。

 またプーチン氏の強気は「今の米欧には荷の重い軍事対応などに踏み込む力はないと見限っているから」と指摘した上で、重ねて「だが、足元のロシア経済は、米欧との対立激化に耐えるほどの体力があるとはいえない」と、成長が鈍化した経済へ一層の打撃を与えると分析。当面は経済的制裁による危機の打開に期待をつないだ 。

 その一方で、プーチン氏が東南部にも武力介入する選択肢を残していることから「危機はさらにウクライナ東南部へ広がる恐れ」のあることを指摘。ウクライナ軍も対抗すれば「新たな戦争がそこに生まれる」ことを警告し、軍事衝突を避けるため「欧州安保協力機構(OSCE)は監視団の派遣を急ぐべき」と訴えたのである。朝日にしては的確な論調を示したと言えよう。

◆ウクライナ支援の力

 「クリミア併合/国際社会挙げて阻止せよ」のタイトルの産経は「懸念されるのは、(クリミア)同様にロシア系が多いウクライナ東部でもロシアの介入などを求めるデモが激化していることだ。それを口実にしたロシアの介入は絶対に阻まなければならない」と強調した。米欧に「対イランで効果が実証済みの金融制裁など」によって、併合プロセス停止、ロシアとの外交交渉を求めた。経済制裁からの旧状回復へのアプローチは朝日のそれとも似た主張である 。

 読売(18日社説)は「ロシアが『ロシア系住民保護』を口実に、ウクライナ東部への軍事介入をちらつかせているのも懸念材料」とし、緊張が高まっていることを憂慮。米欧に制裁圧力の継続と外交努力を重ねることを求めた。小紙(23日社説)は「(ロシアは)ウクライナ東部国境沿いに2万人以上のロシア軍を集結させた」ことを指摘。国際社会に「一致団結しロシアへの制裁を強化するとともに、ウクライナへの支援」の拡大を訴えた。ロシア制裁だけでなく、一方でウクライナへの熱い支援の拡大も、ロシアのさらなる侵略を阻む圧力となることを軽視してはならないのである 。

 なお、詳しい紹介は省くが、ウクライナ危機に関する言論では中谷和弘東大教授「国際法からみたクリミア問題」(日経25日「経済教室」)、米コラムニストのチャールズ・クラウトハマー「ロシアの撤退を夢見る米国」(小紙25日)、米シンクタンク客員研究員の加瀬みき「クリミア問題と西側の結束」(小紙25日「ビューポイント」)などのオピニオンが有益である。

(堀本和博)