クリミア編入問題扱う報道番組でロシア側の理屈も拾った報ステS

◆「G7」が日本の選択

 ロシアがウクライナのクリミア自治共和国を編入したことを受けて、23日放送の報道番組はこの問題を多く扱った。ロシアをめぐっては、先月の華やかなソチ冬季五輪の話題が、兵士と装甲車の映像に変わるドラスチックな展開に目を白黒させるものがある 。

 冬季五輪に続く平和の祭典・パラリンピック大会の余韻も残る21日、クリミア編入を祝って打ち上げられる花火の数々、歓声を上げるロシアの群衆の喜びは五輪開幕以上と見えてしまう。ロシアに制裁を加える西側諸国との感覚の開きは想像を超えるとしか言いようがない 。

 NHK日曜討論は「今後の日本外交は?徹底分析!クリミア情勢」と題して、6カ国協議に参加する国それぞれを専門にする有識者を招き討論していた。分析は充実していたが、日本の取るべき方向は「力による現状変更を日本は絶対に認められない。……G7(先進7カ国)の枠組みというものを再評価して、この中で対ロシア、もしくは対中国等々への対応をしなければならない」(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏)という原則に尽きていたと思える 。

 日本にとってはクリミア編入が中国に影響する事態が懸念される。その最たるものが尖閣問題など中国の海洋進出だ。中国・韓国との領土問題から歴史問題に至る関係悪化で、日本はロシアとの領土問題決着に向け対露外交を活発化させたが、この期に及んでは日米同盟がすっぽり入るG7の枠組みを選択するしかない。

◆暫定政権の極右問題

 測りがたいロシアの感覚について、新潟県立大学教授の袴田茂樹氏は「欧米に対して強い被害者意識を持っている。一つはNATO(北大西洋条約機構)の拡大。これはだまされたと思っている……」などと述べた 。

 ロシアの「被害者意識」は東西冷戦とソ連崩壊(1991年12月)に起因する。問題のクリミアには黒海を内海として支配する海軍の基地があり、帰属をウクライナに認めたのはロシア、ウクライナ、ベラルーシのスラブ3共和国の首脳3人でソ連離脱と独立を密約したからだ。「超大国」意識のあるソ連国民だったロシア人が知らぬ間に黒海艦隊基地のあるクリミアがウクライナになった 。

 ゆえにクリミア領有の下心は体制移行当時からロシア国内にあった。それが今、現実になったのは米国の衰退、特にオバマ政権の腰の引けた姿勢にあるとの見方を識者らは一様に語った。ならば、頼りない欧米を頼みに欧州連合(EU)加盟を過激に求め、ロシア介入の恐れを知りながら政変を起こしたウクライナ暫定勢力も稚拙だったと言わなければならない。しかし、既に“弱者”のためか問題にされなかった 。

 テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」は、「欧米とロシアの対立、新たな冷戦」としてクリミア編入問題を扱った。ここで、ロシアの動向を占う鍵として、クリミア自治共和国のナタリヤ・ポクロンスカヤ検事総長(34歳、女性)の記者会見を紹介。「過激派勢力が国民の生活を決定するようなウクライナでのクーデターは違法です。ナチズムが台頭している」と述べるのを伝えた 。

 検察庁勤務の若い女性がロシア編入後に検事総長に抜擢(ばってき)されたのは、ロシア側のスポークスマンとして広報上の狙いもあろうが、ウクライナ政変で極右政党が勢力を増しているのは見落とせない情報だ。さらに番組は、プーチン大統領の演説を放送した国営テレビ局に乱入した極右政党議員らの暴力行為の映像を流した。「ウクライナ暫定政権を過激派と指弾するロシアの思惑」として、ウクライナの極右勢力の行動が、ロシア系住民を刺激し、国境付近に集結しているロシア軍が介入する口実になるかもしれないという。

◆ウクライナ政変の害

 G7はじめ国際社会はロシアの国際法違反は容認できない。しかし、先のウクライナの「オレンジ革命」、あるいはチュニジアの「ジャスミン革命」に端を発する「アラブの春」など欧米諸国が当初は歓迎や支持を表明した「民主化」も、その後の展開は混乱の連続だ 。

 こうなるとどちらの害が大きいかが目安となろう。親露派ヤヌコビッチ大統領(当時)には不正選挙批判や蓄財、親欧米派つぶしなど問題があった。しかし、ウクライナ暫定勢力の「革命」といえる政権打倒は自らの国土に分裂を誘う高いツケとなったばかりでなく、国際社会に「新冷戦」の難題をもたらしてしまった。

(窪田伸雄)