ウクライナ危機、ロシアのクリミア介入に中国意識し警告した産経
◆ロシア軍が支配下に
皮肉なことに、平和の祭典であるロシア・ソチ冬季五輪に続いてソチ冬季パラリンピックが開かれている最中に、ソチに近い同じ黒海沿いにあるウクライナ南部のクリミアをロシア軍が軍事介入し事実上、掌握した。欧米をはじめ世界は、緊迫の度を増し平和を脅かしているウクライナ危機に、危惧を深めるとともにロシアに圧力を強める制裁に動きだしている。
ウクライナは人口約4500万人、国土は日本の1・6倍の60万平方㌔とほぼフランスと同じ規模で、旧ソ連邦ではロシアに次いで2番目に大きな国である。旧ソ連邦の構成国だったが、1991年のソ連邦崩壊で独立。人口の約2割がロシア系で、クリミア半島では約6割を占めている。
親ロシアのヤヌコビッチ前政権が昨年11月に、EU(欧州連合)加盟の前提となる協定の署名を見送ったことから、反政権デモが激化。治安部隊の過剰な弾圧で多数の死傷者を出し、国際社会から批判を浴び、基盤となってきた政権与党からも離脱議員が相次ぐなどして前政権が崩壊した。今年2月27日に親欧米の暫定政権が発足すると、ロシアは今月1日の議会上院の承認をもとに事実上の軍事介入を行い、クリミア自治共和国を実効支配。16日にはクリミアでロシア編入を問う住民投票を行う予定で、支配の固定化を進めている。対する欧米諸国は、住民投票を認めず、ロシアへの制裁措置を発動するなどして、対立を深めているのが現況である。
新聞はこうした危機状況を前に、どのような論調を打ち出しているのか。
いち早く反応したのは小紙(4日付社説)で「ウクライナの進む道は、ウクライナ国民が決める」ことで「ロシアは直ちに軍部隊の活動を停止し撤退すべき」だと、ロシアに自制を求めた。プーチン大統領の軍事介入否定も「クリミア半島の主要拠点は、ロシアが租借するセバストポリ基地のロシア軍部隊とみられる武装集団が事実上管理下に置いた」現実を指摘したのである。
◆欧米を支持した朝日
だが、「自制の要求」ぐらいでは甘かったというほどに、その後の事態は、欧米がロシアへの対抗措置に踏み切る方向にまで悪化した。そして、新聞は珍しく朝日を含めて各紙とも、欧米の対抗措置をはっきり支持する論調を展開した。というよりも、この危機に2回も社説を掲げたあの朝日を筆頭に、ロシアの「侵略」にはっきり「ノー」を突きつけたのである。
まるで産経かと思ってしまうような朝日の最初の社説(5日付「孤立の愚 ロシアは悟れ」)は、「黒海艦隊の部隊は(クリミア)半島をほぼ制圧した。ウクライナ東部へも軍事展開しかねず、国際社会は『信じられない侵略行為』(米政府)と非難」していることを指摘。「冷戦時代さながらに周辺国の領土に踏み入るのは時代錯誤というほかない」と断罪。ロシアが国連のシリアやイラン問題論議で、国家主権の尊重を唱えてきたことを示し「その理屈を自ら捨て去る愚挙はやめ」よと迫ったのである。
続く8日付のタイトルは「領土併合は認められぬ」。(「主権と領土の一体性」という)「国際ルールに正面から挑む重大な過ちであり、到底認めるわけにはいかない」と強調。「米国と欧州連合(EU)が相次いでロシアに対し制裁を発動したのはやむをえまい。半島の実効支配から併合へと突き進む暴挙は座視しない。その明確なメッセージを結束して送り続ける必要がある」として制裁支持を明確に打ち出したのである。
◆北方領土占拠と同じ
さて本家の産経(7日付主張)。「主権国家に対する明白な侵略」とロシアを非難した。その上で「国際社会は、ロシアをクリミア撤収に追い込みウクライナ領土が保全される日まで外交、制裁手段を動員して圧力をかけ続けなければならない」と訴えた。ここまでは朝日同様だが、ここから産経らしい主張の展開で本領を示した。「首相は機敏に行動を起こせ」という主張タイトル通り、日本の北方領土の不法占拠にも言及し「主権と領土の侵害という点でクリミアと変わらない。日本こそロシアの侵略糾弾の先頭に立つべきだ」と迫った。さらに「ロシアの行為を軽視すれば、アジア地域で他国の領土、領海を脅かす中国に誤ったメッセージも送りかねない」と警告したのである。
紙数が尽きた。読売(7日付)、毎日(8日付)の社説も妥当な社論を展開したが、今回は朝、産の前に少し影が薄かった。
(堀本和博)