世界的EV化の加速で岐路に立つ日本の自動車業界を分析した2誌
日本経済の「屋台骨」
電気自動車(EV)化が世界の潮流になろうとしている昨今、出遅れ感が強い日本の自動車業界もここにきて大きくEV化に舵(かじ)を切ろうとしている。欧州連合(EU)の欧州委員会は今年7月、「2035年までにガソリン車の新車販売をゼロにする」方針を打ち出した。一方、米国のバイデン大統領も8月に、「新車販売に占めるEVの比率を30年までに50%にする」という大統領令を発表した。欧州、米国、さらには中国がEV化を進めている中で、果たして日本は世界で主導権を握っていけるのであろうか。
そんな世界のEV競争を経済2誌が特集している。その一つが週刊東洋経済(10月9日号)の「EV産業革命 自動車立国の岐路」。そしてもう一つが、少し古くなるが週刊エコノミスト(9月7日号)の「EV世界戦 5000万台市場の勝者は?」である。
昨年10月、菅義偉首相(当時)は「50年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロとする」カーボンニュートラル宣言を打ち出し、脱炭素社会の実現を訴えた。わが国の自動車業界におけるEV化の波もこうした脱炭素社会の流れに沿ったものではあるが、日本自動車工業会の豊田章男会長にしてみれば、CO2の排出量削減の責任を自動車業界が負わされることに納得がいかない様子。今年9月に開かれた記者会見で「一部の政治家から『すべて電気自動車にすればいいんだ』という声を聞くがそれは違う」と訴えた。
豊田会長の発言の真意について東洋経済は次のように分析する。すなわち、同会長には「日系自動車メーカーはいち早くHV(ハイブリッド車)など電動車を普及させた結果、この20年間で23%CO2排出量を削減している。…気候変動問題への対応で日本はかなり優等生」という自負とともに、「(日本で)自動車産業が生み出す雇用は全就業者の1割に当たる550万人、出荷額は全産業の2割を占める70兆円」だとし、これを蔑(ないがし)ろにされたのでは日本経済を支えた屋台骨が崩れるという危惧があるというのである。
国の浮沈懸けた戦い
ところで、今回のEV化について先頭を走っているのが欧州だが、その背景としてエコノミストは、「『自動車発祥の地(ドイツ)』は自らの不正で主力『ディーゼル』の信頼を失墜させ、HVも日本勢の牙城になった。国家ぐるみで新分野を開拓しなければ日中韓に駆逐され沈没する」(遠藤功治・SBI証券企業調査部長)と指摘。その上で、「VW(フォルクスワーゲン)やダイムラーはEU最大の『雇用主』で『納税者』。近い将来導入されるであろう国境炭素税なども『環境対策』に名を借りた『保護主義政策』の典型とも捉えられるかもしれない」(同)と分析する。
すなわち、EV戦争は単なる企業間の戦いではなく、国家の浮沈を懸けた戦いと位置付けられる。そういう意味では、EV化に関しては政府と企業の緊密な連携をもって戦略を練る必要がある。
電力不足招く矛盾も
また、EV化といっても即座にEV社会が出現するものではない。これについて東洋経済は、「日本の保有乗用車約6200万台がすべてEVになった場合、新たに必要になる電力は、現在の年間総発電量の1割強となる」と指摘。夏の電力使用量のピーク時、国内乗用車がEVであれば、電力不足となり停電も覚悟しなければならなくなるというわけだ。EVを走らせるために石炭・石油発電所を増設せざるを得ないという矛盾も出てくる。そういう視点からすれば、EVは再生可能エネルギーを中心にした脱炭素社会を促進するなど、われわれの日常生活の基盤を変革していく可能性がある。
とにもかくにも自動車産業は日本経済を支える屋台骨である。ましてやEVの心臓部といわれる車載電池の製造技術は日本のお家芸とされている。出遅れ感は否めないとしても勝機は十分にある。浮足立つことなくしっかり見据えた取り組みが肝心ということなのだろう。
(湯朝 肇)