大谷翔平の活躍ぶりを監督との一問一答などで分析したNW日本版
よい意味で感情出す
ニューズウイーク日本語版10月12日号で総合タイトル「大谷翔平がアメリカで愛される理由」を特集している。監督の声、現地のスポーツジャーナリストの評論など、日本人向けの米国発週刊誌でないとできない延々16ページの賑(にぎ)わしい企画だ。「二刀流の成長はまだ続く」と題した、大谷が所属するロサンゼルス・エンゼルスのジョー・マドン監督へのスコット・ミラー(MLB〈大リーグ〉専門スポーツジャーナリスト)のインタビューが興味深い。
マドン監督はまず「ショーヘイについて言えるのは、彼は(二刀流を認める球団と)契約したということだ。後は彼のやりたいようにやらせるだけ。ああしろ、こうしろとうるさく言わないこと」と、大谷の挑戦、進取の精神に敬意を表す。
その上で、「多くのMLBのフロントは主導権を手放したがらない。誰もがコントロールしたがる。だが偉大な才能の邪魔をしてはいけない」「私は(エンゼルスのゼネラルマネジャー)ペリー(・ミナシアン)とじっくり話し合った。…冬中ずっと話し合い、キャンプに来て再度確認した。…ペリーは単刀直入に言った。投げさせて打たせよう、と。私はにんまりした。全く同感だったからだ」と。大谷の今季の活躍は、彼を取り巻くフロント、現場が用意周到に準備し指導した賜物であることもしっかり強調している。
昨シーズンの大谷との違いについて、「感情面だね。よい意味で試合中に自分の感情を出すようになった。…われわれはやっとショーヘイという人間が分かってきた。一皮むけた感じだ。何の制限も、何の縛りもなしに、思い切りプレーしている。野球選手であること以外、何も気にせず力を発揮できる解放感を、彼は心から楽しんでいる」。マドン監督の注意深い現場の采配ぶりが目に見える。同監督との二人三脚でアメリカンドリームを体現しつつある若々しい姿に米国民は熱烈な拍手を送っているのだ。
自由だが激烈な競争
海外渡航を決めた大谷の自発的な意志プラスそれをバックアップし、育てる良い環境がなければ大谷の才能の爆発的な開花はなかったと主張しているわけだが、読者に異論はなかろう。大谷の先行きについて監督は「(本人は)大変な重圧だ。…彼は今、期待を全く裏切っていない。彼はそれほど素晴らしいし、今後さらに成長するはずだ」などとあまり多くは語らない。選手にけがや故障は付き物だという配慮があるのだろう。
ところで今年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏は、研究者としてスカウトされ米国に渡り奮起して成功した。能力を生かす機会を捉えて、自力で身を立てるべきだという、自由だが激烈な競争社会。どの分野でもそこでの成功者は称賛されてしかるべきだ。
一方、リサ・オルソン(スポーツジャーナリスト)は「NYは『ショー』を待っている」とヤンキースの大谷へのラブコールが始まっていることを伝えている。ただ、そのヤンキース球団は資金不足が続き、大リーグ人気に陰りが出ていることを多くの人が知っている。
大相撲の白鵬関は大きな存在だったが、その一方で、日本人力士の生彩のなさ故に大相撲人気は目立って落ちている。大リーグの今はそんな角界の状況と似ているのかどうか。ニューヨークへの大谷招請は、大谷人気にあやかろうとしているのか、そんなことも知りたい。
勝敗あっての記録?
ゴードン・イーズ(スポーツジャーナリスト)の評論で、「野球の神様ルースを超える偉業」と。ルースがフルに戦った1919年には打席数543、投球回数133回1/3、計676回1/3。一方、大谷は今シーズン2試合を残し、打席数630はルースを上回り、投球回数130回1/3もルースに迫ったことなどを挙げている。日本人として誇らしい気持ちだが、当時のルールと同列に扱うことに異論を唱える人もいるだろう。ここは米国の野球ファンの声をいろいろ聞きたいところだ。
(片上晴彦)