SDGs下での人権留意を求められる企業行動に着目する東洋経済

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略である。

企業の信用失う恐れ

 今やSDGs(持続可能な開発目標)が時代の潮流になっている。2015年に国連が定めたもので、①貧困をなくす②全ての人に健康と福祉を③誰もが取得可能で、なおかつクリーンなエネルギーに―など17の開発目標について30年までの達成を目指すというもの。今ではSDGsは学校の総合学習のテーマからボランティア活動、企業の取り組みまで認知度は確実に上がってきている。

 そうした中で東洋経済(9月25日号)は、企業と人権という観点からSDGsを取り上げた。見出しは「SDGsが迫る企業変革 ビジネスと人権」。この特集の趣旨としては、「欧米では企業に対し、人権リスクの把握と対策を求める動きが高まっている。後れを取る日本企業が対応すべき課題に迫る」とし、人権問題に配慮した企業経営が今求められていると訴える。

 確かに、近年の出来事で言えば、中国新疆ウイグル自治区において中国政府が現地の人々を強制労働で働かせている可能性の高い工場と取引しているグローバル企業の中に、日本の企業11社が含まれているとするオーストラリアの調査機関からの報告書が昨年2月に出て問題になった。

 もっとも、11社はその後、その工場との直接取引はなかったとの声明を出しているが、SDGsが進めば進むほど企業は細部にわたって人権問題に注視しなければならない状況になってくる。そうでなければ企業そのものの信用が失われ、他国企業と取引中止に追い込まれる可能性が高いからだ。

 「事業活動で生じる人権侵害のリスクを企業が把握し、予防策や軽減策を講じること」を「人権デューデリジェンス」というが、その範囲は「直接取引先だけでなく、原料や部品を調達する2次以降の取引先も含めたサプライチェーン全体が対象になる」と東洋経済は綴(つづ)る。

酷使される「実習生」

 日本企業において長い間問題になってきたのは、海外からやって来る技能実習生の過酷な労働実態や偽装留学生の扱いである。同誌は次のような事例を紹介する。

 「(ある女性技能実習生の)1年間の休みは3日で、労働時間は1日平均12時間、その後に寮での内職が平均3時間。それでも手取りは月8万円程度。日本で働けば家族で幸せになると信じ、100万円近い借金を抱えて来日したが、日々の重労働と社長からのセクハラに耐え切れず、実習先の縫製工場を逃げ出した」(鈴木江里子・国士舘大学文学部教授)という。

 さらに言えば、技能実習生を送り出す現地の国の悪徳ブローカーといわれる存在も指摘される。問題なのは、日本人であれ、外国人であれ、人権を無視した就労の事実が明かされてゆくならば、日本という国の信用失墜につながるということである。

 かつて江戸時代の前中期に活躍した商人に石田梅岩という人物がいた。彼は「石門心学」という「商道」を思想体系化していった。それは現代にも十分通用する「経営の本質」を突くものとして高く評価されている。すなわち、彼が商いにおいて繰り返し強調したことは、「商人は正直であることで、人から信用される。信用されることで商売は成功に向かう。自己の内面の良心に照らして、それに反することは、たとえ法に違反しないことであってもしてはならない」であった。

石田梅岩の「商人道」

 石田梅岩の思想が、利益中心の権謀術数渦巻く世界経済に通用するかどうかは不明だが、かつての日本にはこうした人権侵害とは無縁の高尚な「商人道」が存在していたのである。

 技能実習生はベトナムやインドネシア、カンボジア、ミャンマーなど東南アジアの国々が中心になっている。中国の覇権主義が強くなっていく中で、それらの国々と良好な関係を保つことは極めて重要なこと。その意味で日本企業のトップが人権を意識するのは当然のことであろう。

(湯朝 肇)