コロナどこ吹く風のベンチャー企業、一方で急増する「倒産予備軍」
◆活躍する若手起業家
東京証券取引所で8日、約5カ月ぶりに日経平均株価が3万円台の大台を回復した。一方、同日発表された内閣府の8月の景気ウオッチャー調査によれば、街角の景気実感を示す現状判断指数(DI)は前月比13・7ポイント下落の34・7。DIが50未満だと景気が下向き(悪い)であることを示す。とりわけDIが40以下の場合、天気で言えば雨に例えられることが多く、新型コロナウイルスの感染拡大で“街角”の企業経営者はかなりの長雨状態に晒(さら)されている。果たして日本経済は好調なのか停滞なのか。はたまたアルファベットの「K」の文字のように2極化の方向を示しているのか。
こうした日本の経済動向を象徴するかのような特集を経済2誌が組んだ。一つが週刊東洋経済(9月4日号)の「すごいベンチャー100」。もう一つが週刊ダイヤモンド(同号)の「廃業急増のウラ 倒産危険度ランキング」。
このうち東洋経済は若手起業家が活躍するベンチャー企業100社を紹介。例えば、大学の研究室で得られた技術を実用化する分野では、脳卒中などでマヒした身体をパソコンやロボットを使って再び腕や足を動かす機器を開発し、来年には医療用機器として許認可を受け販売にこぎ着けようとする「Connect(コネクト)」社。食品・農業分野では、大豆を用いた植物性代替肉の技術開発を売りにする「DAIZ」など。とりわけ、2015年設立の「DAIZ」社のこれまでの資金調達実績は約30億円に達するという。
こうした国内ベンチャー企業の動きが活発な背景には、人工知能(AI)やデジタル機器が高度化し活用が広がったことに加え、海外投資ファンドの潤沢な資金流入がある。国内ベンチャーの資金調達額は今年1~6月期だけでも3245億円に及ぶ。「香港やシンガポールなど世界の投資家にとって日本のベンチャー市場は未開拓。そんな中で起業家も成熟し、ベンチャーのサイズも大きくなった」(グロービズ・キャピタル・パートナーズの湯浅エレム秀和ディレクター)と言う。まさに新型コロナウイルスどこ吹く風といったありさまだ。
◆ステルス型と諦め型
一方、ダイヤモンドの特集は重たい雰囲気が漂う。「コロナ禍で倒産事情は激変した。コロナ倒産件数は右肩上がりの一方、全体の倒産件数は歴史的な低水準で推移する。しかし、安心するのは早計だ。豊富な企業支援策で生かされステルス化した『倒産予備軍』が急増中なのだ」と警鐘を鳴らす。そこで近年の倒産の特徴を五つに分けて分析する。すなわち、①過剰債務に陥る企業の急増②企業再生の手続きの多様化で本来は倒産していたはずなのにカウントされない「ステルス型」の企業の増加③コロナ連鎖型の倒産④先行きを悲観した「諦め型」の倒産⑤今年に入って浮上した「半導体不足」の倒産―といった具合だ。
確かにこれまでは、ホテル、旅館、飲食店といった業種が新型コロナによって壊滅的な打撃を受けてきたが、最近では建設業関連の業種からも悲鳴が上がってくる。札幌市内のある塗装業者は「とにかく仕事がない。新規出店や改装工事もないので時間を持て余している状態。銀行だって仕事がないので資金も融通してくれない。いつまで持ちこたえられるか、我慢比べの状態」と嘆く。
◆加速される企業淘汰
ダイヤモンドはいつものランキング化で危ない企業493社を列挙しているが、中でもワースト30社を分析。さらに、危ない会社を見抜く99のポイントを示しながら、最後にはプロのテクニックを持ったいわゆる「企業のおくりびと」による廃業支援術を紹介する。廃業するにしても倒産地獄を回避し、手元に資金が残る「勝ち組」入りすることができるというのである。
いまだに感染拡大が続く新型コロナウイルスは日本ばかりでなく世界経済にも大きな影響を及ぼしているが、少なくとも経済活動においても企業淘汰(とうた)を加速させていることは確かなようだ。(湯朝 肇)