アフリカ中部でIS「カリフ国家」復活を警告するエジプト・サイト
◆拡大続くISWAP
アフガニスタンからの米軍撤収を受けて、イスラム主義勢力タリバンが実権を掌握、テロ組織、アルカイダや「イスラム国」(IS)系組織「ISホラサン州(ISK)」の勢力拡大が懸念される中、アフリカ中部でもIS系組織が、かつてのイラク、シリアのような支配地の確立へ着々と基盤を築いている。
英ガーディアン紙は、「アフガンで起きていることと、ナイジェリアで起きている惨劇の間には異様なほどの類似性がある」と指摘、ナイジェリアのIS系組織「IS西アフリカ州」(ISWAP)の勢力の伸張ぶりを指摘している。
ナイジェリアでは、イスラム過激組織「ボコハラム」が反政府活動を展開、2014年には女子生徒200人以上を誘拐したことで、世界を驚かせた。戒律の厳しいサウジアラビアの国教イスラム教ワッハーブ派を信奉し、アフリカ中部の各地でテロ活動を行ってきた。ところが、16年にISに忠誠を誓う一派が離脱し、ISWAPとして本家のボコハラムをも脅かすほどに勢力を伸ばした。5月には最高指導者、アブバカル・シェカウ容疑者が、ISWAPに追い詰められ、自爆死した。ISの指導者バグダディ容疑者が19年、米軍に追い詰められ、自爆したことが思い出される。ボコハラムは指導者の喪失後、弱体化が進み、現地からの報道によると、この数週間で6000人が政府に投降した。
一方のISWAPは快進撃が続く。
エジプト戦略研究センター(ECSS)の事務局長、ハレド・オカシャ氏はニュースサイト「アハラム・オンライン」で、「アフリカの中心にIS新首長国」と、その勢力の拡大ぶりを伝えている。14年にイラク、シリアであっという間に広大な支配地を獲得し「カリフ制国家」の樹立を宣言したISの悪夢が、アフリカで再現されようとしているのだろうか。
◆数百万人犠牲の恐れ
オカシャ氏は、シェカウ容疑者の死後、ISWAPの再組織化が急速に進んでいると指摘、アフリカ各国にISWAP再編を阻止するため、直ちに行動するよう求めている。
オカシャ氏によると、南アフリカのシンクタンク、安全保障研究所(ISS)は、行動を起こさなければ、「地域へのIS拡張計画によって、アフリカ人数百万人の命が失われる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
ISは14年以降、世界に「イスラム国の領土」として世界十数カ所に州を配置した。ISWAP、ISKはそれらの州の一部。これら以外にも、ISを支持し、忠誠を誓う組織が各地に存在している。イラク、シリアでの「カリフ国家」は確かに消滅したが、実体としてのISは消えたわけではなく、支配地獲得、拡大へと着々と歩を進めている。
オカシャ氏によると、ISの勢力拡大は、「イラクとシリアの支配地を失う前に開始され、シリアのラッカを首都とした『国家』に似た支配と安定」を確立することを目指しているという。
この「国家」の建設が今、ISWAPの手によって進められているということだ。シェカウ容疑者の排除は、この計画の一環とオカシャ氏はみている。
◆動きの鈍い周辺各国
ところが、周辺各国は動きは鈍いと、オカシャ氏は危機感を募らせる。ISWAPは現在、ボコハラムが強かったナイジェリアの「サンビサ」以外の地域にも勢力拡大をもくろんでいるという。「各地に自治を認めて、作戦基地を設置しており、今後、「ナイジェリア北部、チャド、ニジェール、カメルーンにまで拡大する可能性がある」とまで指摘されている。
米国が内向きになり、アフガン、シリア、イラク、リビアなどから手を引く一方で、アフリカ中部でもISが国家の復活を夢見て、活発に活動している。これこそが、アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンが生前指摘した、「米国の敗北」だ。
(本田隆文)





